「は?」

気がつくと、僕は彼女に連れられてレンガづくりの門扉をぬけていた。
玄関までの長いアプローチのまわりに色とりどりの花が綺麗に咲き並んでいる。
ガーデニング好きなのがよく分かる庭だ。

彼女は制服のポケットから鍵を取り出し、玄関のドアに差し込む。

「あれ?」

驚いたように彼女が呟いた。

「あれ? お母さん。帰ってるのかな?」

どうやら鍵が開いていたことが意外だったようだ。

「あ、冴木くん、どうぞ」

彼女に招かれ、恐る恐る玄関のドアをくぐる。
何かとてもいい香りがした。

「おじゃまし・・・・・ます」

女の子の家に入るのは、僕の記憶の限りでは小学校の学芸会での劇の練習でクラスメートの女の子の家に行った時以来ではないだろうか。

「ただいま」

彼女が家の中に向かって声を掛ける。

「おかえり」

家の奥から返事が返ってくると同時に上品そうなスーツ姿の女性が出てきた。
彼女のお母さんだろう。

どうやら彼女はお母さん似のようだ。


「お母さん、今日は早かったんだね」
「ええ。さっき帰ったばかりだけど。会社の用事で寄るところがあって、そこからそのまま帰ってきちゃったの」

スーツが綺麗に決まっていた。キャリアウーマンという感じがする。

「あら、お友達?」

「うん、学校のお友達なの。冴木くん。ここまで送ってくれたんだ」

彼女はちょっと戸惑った感じで答えた。

僕は来たことを半分後悔しながらも緊張しているのを悟られないよう平然を装おうとした。だが、恐らく顔が強張っていてバレバレだっただろう。

「あ・・・・・突然すいません。冴木・・・・・です。おじゃまし・・・・・ます」

緊張のあまり声がひっくり返ってしまった。
ダメだ! 緊張して思うように声が出ない。

「いらっしゃい。どうぞ」

お母さんはそんな僕を見てかクスっと笑った。ガチガチに緊張している僕を見ておかしかったのだろう。顔から火が出るほど恥ずかしかった。

彼女の部屋は僕がイメージしていた女の子の部屋とはかなり違っていた。
女の子にお決まりのぬいぐるみはあるものの数は少なく、少女漫画チックな飾りもない。
必要なものがしっかりと揃っているシンプルなものだった。

ノックの音が鳴る。
彼女が返事をしたと同時にお母さんがお茶を持って入ってきた。