考えてみれば、こんなふうに女の子を待ち伏せするのは生まれて初めてのことだ。

公園の中にある管理事務所の角で彼女を待つことにした。
ここなら学校方面から来る生徒をきれいに見渡せる。

しばらくの時間が過ぎた。
でも彼女の姿は見えなかった。

公園を歩道をランニングする人がたびたび通り過ぎる。
だんだんと風が冷たくなってくるのを感じる。

一時間くらいは経っただろうか。
僕はちょっと遅すぎるように思い始めた。

もしかして帰り道を勘違いしてたか、もしくは別の道で帰ってしまったか? 

西の空に傾いた大きな夕日が新興住宅街の向こう側へと傾きかけていた。まわりの空気が冷え込んでくるのに合わせ、だんだんと僕の気持ちも弱気になってくる。

もう諦めて帰ろうと振り向いた時だった。
見覚えのある生徒の集団が掛け声をかけながら走ってきた。

――あ、まずい!

テニス部の部員がランニングしてこちらに向かってきた。

そう。ここはテニス部の練習締めのランニングコースだった。
そんなことも忘れるほど僕は冷静さを失っていたらしい。

今日は病院へ行くと言って部活をさぼってるので見られたらまずいのだ。僕はすかさず管理棟の建物の陰に隠れた。

部員の掛け声が管理棟の反対側を通り過ぎていく。
どうかバレないようにと祈りながら部員の掛け声が通り過ぎるのを待つ。

徐々に掛け声が小さくなり、遠ざかっていくのが分かった。

僕はホッと一息をつく。
しかし振り返ると同時に僕の体は氷のごとく硬直した。

彼女がびっくりした顔をして僕の目の前に立っていたのだ。

もちろん僕もびっくりした。

「何してるの? こんなところで」

突然のことで僕は声が出せなかった。
彼女の顔が怒っているように見える。

僕の頭はパニック状態に陥った。

昨夜から言おうと準備していたセリフは全て頭から消し飛んでいた。

そうだ、とにかく謝まらなきゃ。

「ご・・・・ごめんね。きのうに葵さんに酷いこと言っちゃって。本当に・・・・・ごめんさない」

とにかくひたすら謝った。

「そんなことを言うためにずっとここで待ってたの?」

黙って頷いた。

許してもらおうとは思っていなかった。
僕自身がとにかく彼女に謝りたかったんだ。

しばらく沈黙が続いた。
僕は俯いたまま彼女の顔を見ることはできなかった。

「まるでストーカーみたい・・・・・」