でもそれは緊張からではない。
僕はずっと彼女のことを考えていたのだ。

昨日と同じようにフェルメール展に入った。
昨日に負けないくらい多くの人が並んでいた。

彼女に言われた通り前売り券を買っていったので今日はすんなりと会場に入ることができた。
でも会場の中ではうわの空で何を話したのか全く記憶がない。

会場を出た後はまた昨日と同じ道を歩き、昨日と同じカフェに入った。

昨日のリハーサル通りに動いたが、気分は全く違った。

今回はテーブルの席を案内され、そのままその席に座った。
向かい合わせに座ったが僕は麻生さんと目を合わせることがでず、しばらく重い沈黙が続いた。

僕は一体何をしているんだろう?
今は麻生さんとデートしてるんだから余計なことは考えるな。
そう自分に言い聞かせる。

「冴木君はどんな本を読むの?」

麻生さんから話し掛けてくれた。

「うん・・・そうだね・・・」

でも、僕は上の空でその質問は頭の中を素通りしていた。

僕はその後もしばらく黙ったまま何も言えなかった。

「何、考えてるの?」
「え?」

「ごめんね。私と一緒にいても楽しくないかな?」
「え? そんなこと・・・・ないよ」

僕は慌てながら言った。

どうしよう。
あまりにも会話が無いから麻生さんに変な心配をさせてしまったようだ。この際何でもいい。
何か話題を探すんだ。

僕は二人に共通の話題を探す。

「あのさ、葵さんて・・・・どんな人?」

言った後に猛烈に後悔した。
とんでもない質問をしてしまった。
どうして麻生さんといる時に彼女のことを訊く?

自分の余りにもの馬鹿さ加減にうんざりした。

「ズズメちゃん? うーん・・・・明るくて元気で。私と正反対の性格かな。男の子にも人気あるし」

麻生さんは素直に答えてくれた。

「確かにすごく元気そうだよね」
「でもスズメちゃん、体が弱いみたいで体育は見学が多いんだよ」

体が弱い?
とてもそうは見えないが意外だった。

「ふーん」

僕はそう返しただけで、すぐ会話は止まった。
また沈黙が続いた。

気がつくと、僕はまた彼女のことを考えていた。

「帰るね。今日はありがとう」
「え?」

麻生さんはすっと立ち上がるとそのまま店の出口へと向かった。

 ー―しまった!

麻生さんは僕の態度に呆れてしまったようだ。
でも無理もない。