僕はその馬鹿にしたような口調の言葉にちょっとイラついた。

「悪かったね、どうせ真面目だよ。僕は」

その言い方に今度は彼女の表情が険しくなる。

「何それ? 男の子のくせにウジウジ言わないでよ! まずは行動する。それでダメならダメでまた考えればいいじゃん」

この彼女の言葉に抑えられていた僕の感情に再び火がついた。

「悪かったね、ウジウジしてて。大体、どうして僕にそんなこと言うの? 葵さんは元々関係ないでしょ!」

「関係ないけど言いたいの! 君はもう少し変わったほうがいいよ。なんか暗いし。高二なのに女の子と一度も付き合ったことないんでしょ? もっと気軽に行こうよ」

「悪かったね。一度も女の子と付き合ったことなくて。でも気軽に誰とでも付き合うってことはしたくないんだ」

僕の声はいつの間にか叫ぶように大きくなっていた。
彼女も叫んでいた。

自分の感情のコントロールが利かない。
こんなこと初めてだった。


「もういいよ! 葵さんは、どうせ恋愛下手の僕を見ておもしろがっているだけでしょ?」

僕は吐き捨てたように叫んだ。

その声によほど驚いたのか、彼女は怯えるような顔で僕を見ていた。

「そんなことないよ。何でそんなこと言うの?」

彼女は僕の激しい態度に戸惑っていた。
なぜこんなに感情的になってしまったのか、僕自身も分からない。

一度バランスを崩した心はなかなか元に戻せなかった。

「別に僕は無理に変わろうとは思ってないよ。今のままで満足してるし。大体、僕が誰を好きになろうが、誰と付き合おうが葵さんには関係ないよね。葵さんはあちこちの男子といろいろと遊びながら付き合ってるんだろうけど、僕は葵さんみたいに気軽には付き合えないんだよ!」

「何? それ・・・・・」

彼女の声が急に強張った。まわりの空気が一瞬に張り詰める。

今、何を言ったんだ、僕は? 
ムキになって言ってはいけないことを言ってしまった。

「あ、あの、ごめ・・・・・」
「そんなふうに思ってたんだ。私のこと・・・・・」

彼女は強い口調で僕の声を遮った。
そしてゆっくりと立ち上がった。

やっぱり怒っちゃった。
もう彼女の顔を怖くて見ることはできなかった。

怒鳴られる。そう思った。

「ごめん。もう何も言わない・・・・・」

 ――え?

怒ってはいなかった。