他人(ひと)他人(ひと)、自分は自分、そう思っていたから特に他人を否定も肯定もしないのだ。

「当然、菜美ちゃんには興味あるでしょ?」
「え?」
「君は菜美ちゃんのどこが好きなの?」

その質問に僕は戸惑った。
戸惑っていた自分に戸惑った。

そう言えば僕は麻生さんのどこが好きなんだ?

「うーん。どこって言われると困るな・・・・・」
「え?・・・・ちょっと待って。どういうこと?」

彼女の顔色がすっとと変わる。

僕はどうもマズいこと言ってしまったようだ。

「困るってどういうこと? 菜美ちゃんのこと好きじゃないの?」
「いや、好きじゃないっていうことじゃないんだけど・・・」

ここでまた言葉に詰まる。
自分の中にある筈の答えが見つからない。

「なあにそれ? 君、そんないい加減な気持ちで菜美ちゃんに告白したの?」

彼女のその“いい加減”という言葉に僕はちょっとカチンときた。
僕はいい加減なことが嫌いなんだ。

「別にいい加減な気持ちではないよ」

僕のちょっとムキになった口調で言い返した。

「じゃあどんなつもりで声を掛けたのよ? そんなんじゃ菜美ちゃんがかわいそうだよ」

彼女はそれにも増す強い口調で食ってかかってくる。

「あのさ、何で僕がそんなこと言われなきゃいけないの? そもそも僕をけし掛けたのは葵さんだよね?」

しまった。僕は何を言っているんだ。元々、悪いのは僕じゃないか。

「ごめん。大きな声出して・・・」

僕はすかさず謝った。
それを見た彼女も急にトーンが萎んだ。

「あの・・・君、菜美ちゃんのこと、好きなんじゃなかったの?」

さっきとは打って変わり、探るような小さな声になった。

「いや、多分好きなんだと思うけど、よく分からないんだ。僕、女の子と付き合ったことないから、好きとか嫌いとか・・・」

「ごめん。もしかして私、余計なことしちゃったのかな?」

彼女は困惑した顔になり、そのまま俯いた。

「別に葵さんが謝ることじゃなないよ」

彼女は頭を抱えながらしばらく黙り込んだあと、すっと顔を上げた。

「でもさ、まあ取り敢えず付き合ってみたらいいんじゃない?」

「取り敢えずって・・・・・、そんないい加減なことで女の子と付き合っていいのかな?」

彼女は呆れたように表情を曇らす。

「真面目だなあ、マジメくんは・・・・・」