彼女は目を大きく広げ慌てて口を抑える。

「いや、ごめん。違うよ。何でもない」

真っ赤になりながら俯いた僕を見て彼女は思いっきり笑い出した。

「おっもしろい! 真面目くん」
「あの、いいよ、そんな気を使って笑ってくれなくて・・・・・」

彼女は笑いながら首を横に振った。

「うんうん。オッケーだよ。そういうこと言えるようになったということは、少しは慣れてくれたのかな?」

彼女の気遣いはさらに僕を恥ずかしくさせた。
そしてさらに追い打ちをかけてくる。

「じゃあ、はい、あーん」

 ――何?

彼女の甘い声に俯いていた顔をフッと上げる。
すると彼女のフォークで差し出した一切れのパンケーキが口の前にあった。

「は?」

そう言いながらポカンと口を開けた瞬間、それが僕の中に放り込まれた。

 ――え、今の何?
 
照れる時間すらなかった。

「美味しいっしょ?」
「うん」

「あ、これ、本当は君の仕事だからね。明日の本番では君が菜美ちゃんにやってあげるんだよ」

そうか。明日は麻生さんとデートだった。ちょっと気が重くなったのは気のせいだろうか。

僕は黙々とパンケーキを食べる彼女を見ながら、明日の麻生さんとのデートことを考え始める。

「あの・・・こうして二人でいる時って何を喋ればいいのかな?」

僕の質問が間が抜けていたせいだろうか。
彼女は不思議そうな顔をして僕を見た。

「ん? 何でもいいんだよ」

世の中“何でもいい”というのが一番困るんだ。

「元々、僕は人と話すこと自体が苦手なんだ。女の子ならなおさらだよ」
「そんなに悩まなくていいんじゃない?」

それができないから苦労しているんだけど。

「葵さんってさ、どうしてそんなにいろいろと話すことができるの? 誰とでも仲良く話せる感じだし」
「別にそれほどのモンじゃないと思うけど」

「どうしたら葵さんみたいになれるのかな? 話題とかって困らないの?」
「話題か・・・そうだね。話題を持ちたかったら、まずは相手に興味を持つことじゃないかな」
「相手に・・・興味?」
「その人に興味を持てばいろいろ訊きたいことが出てくるし、自然と会話も弾んでくると思うよ」

そう言われると、僕はあまり他人に興味を持ったことがないような気がする。