そう言いながら彼女は僕の手をそっと握った。

 ――え?

僕の心にドキリと緊張感が走る。
女の子と手を繋ぐのは中学校のフォークダンス以来だ。

「これもリハーサルだよ」

彼女はそう言って僕の手を引っ張った。

会場を出たあと、渋谷のセンター街へと向かう。

「美術展って初めて来たけど面白いね。フェルメールって初めてだけど、とっても素敵だった」

絵画なんて全然興味無さそうだったのに、とても楽しそうでなによりだ。

渋谷の街中はどこも人でいっぱいだ。
今度は彼女から目を離さないように注意しながら歩く。

でも女の子と二人で歩くことに慣れていないため、その距離の取り方が分からない。

離れるとまたはぐれそうだし、あまりくっついても失礼だし・・・。
そんなことを思いながら戸惑うように歩いていた。

彼女はそれを見越すかのように僕のすぐ後ろをくっつくように歩いていた。

彼女は一見するとマイペースなように見えたが、何気なく気遣いをしているのを僕は感じていた。

「ねえ、喉が乾かない? ちょっとお茶飲んで行こうよ」

緊張で喉がカラカラだった僕は彼女の提案に飛びついた。

「でも僕、お店とか全然分からないよ」
「そのためのリハーサルでしょ」

彼女はさりげなくまた僕の手を取り、脇の道へと引っ張った。

人通りの多いメイン通りから狭い路地へと入る。
ちょっと横に入っただけで周りの雰囲気がガラっと変わる。

欧風の洒落たカフェの前で立ち止まった。

「このお店だよ。穴場でけっこうすいてるんだよ。その割にお洒落で可愛いでしょ」

ちょっと煤で汚れた感じに塗装された木製の扉。
そこを開けるとドアの軋んだ音とカランとした鈴の音が共鳴して響いた。

店内は歴史を感じさせるアンティークな家具に囲まれ、どっしりと落ち着いた雰囲気に包み込まれていた。

場所がメイン通りから奥まっているせいだろうか、確かにお客は疎らだった。

シックなメイド風のウエイトレスさんが中央のテーブル席を案内してくれたが、彼女は窓際にあるカウンター席を指差した。

「あのカウンター席でもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」

そう返事をすると窓際まで案内してくれた。
僕らはそこに並んで座った。

「向かい合って座るより横に座るほうが距離が近いでしょ。より親近感が深まるんだよ。