貼られてる宣伝用ポスターを見て、関心したように彼女が呟く。

「うん。葵さんは絵画とか見るの?」
「美術の教科書で見たくらいかなあ・・・・・」

うん。そんな感じだな――と心で呟く。

「あ、君、今、私を馬鹿だと思ったでしょ」
「思ってないよ!」

僕は慌てて手を横に振った。
びっくりした。思いの外、彼女、観察力が鋭いかも・・・。

しかし、こんな長い行列を待つ間、みんなはどんな話をしながら待っているのだろうか。
口下手な僕は、話題がもつかどうか不安でいっぱいだった。

でも、そんな心配はすぐにふっとんだ。僕が緊張して何も話せない分、彼女はひとりで喋りまくっていた。

自分の友達の話や家族の話をしたり、また僕のことについても家族や趣味のことをいろいろ訊いてきた。

彼女はずっとはしゃぎ続けながら喋り続けた。
このテンションを維持しているエレルギーはこの華奢な体のどこから来るのだろう?

そんな彼女に対し、僕は馬鹿にするどころか尊敬の念すら抱いた。


ようやく中に入れたのは並び始めてから四十分ほど経ってからだ。

情けないかな、過度の緊張もあってか、すでに僕の体力はかなり消耗していた。

会場に入って方も人込みは衰えなかった。
絵をゆっくり観る余裕なんてなく、人をかき分けながら進路を進む。

別室に移るところで後ろを振り返る。

 ――あれ? 葵さんは?

後ろを歩いていたはずの彼女がいない。
しまった。はぐれちゃった!

僕は慌てて会場を逆行した。
人の流れに逆らいながら歩くのは思いの外に困難だった。

葵さん、大丈夫かな?
不安で寂しくなってないかな?

僕は心配でたまらなかった。

コーナーを曲がったところのメインの絵の場所に彼女の姿を見つけた。

 ――いた!

彼女は茫然とある絵を見つめていた。

「葵さん!」

思わず僕はは叫んだ。

「ごめんね。この絵、すごく素敵なもんだから見入っちゃったの」
「よかった! 見つかって。すごく心配したよ」

僕は何だか分からないが目頭が熱くなって、涙が溢れそうになっていた。

「そんなに心配してくれたんだ? 私のこと」
「心配したよ!」

ちょっと怒って、そして泣きそうになった。
そんな僕を見ながら彼女は優しく笑った。

「何だよ?」
「いやあ、君も優しいところあるじゃん」