マジメなハジメと蒼いスズメの恋愛リハーサル

「うん。(あおい)さん。私のクラスメイトだよ。みんなはスズメちゃんって呼んでるけど」

 ――葵すずめ?

「いつもあんな感じの元気な明るい子だよ」

そうだ。最近ここによくいる男女四人グループのうちの女の子だ。
どおりで見たことあるはずだ。

でも、彼女はどうして僕の告白を手伝ってくれたのだろうか? 
僕には思い当たるフシが全くなかった。

「名倉君は確かB組だよね」
「え? 僕のこと知ってるの?」

名前を知っていたことにびっくりする。

「選択の美術の授業、A組(わたし)と一緒……でしょ?」

自分のことを知っていてくれたことに素直に喜んだ。

「さっきの葵さんとはいつも一緒なの?」
「私はひとりが多いんだ。スズメちゃんはクラスでも友達が多いし、明るくて賑やかで羨ましい」

麻生さんは喋り方がぎこちなく声も遠慮がちに小さい。

他人(ひと)と話すのがあまり得意ではないのが分かる。
僕はそんな麻生さんに自分と同じ空気を感じた。


学校には大きく分けて二つのタイプの生徒がいる。

僕のように内気でよくひとりでいるタイプ。
そして性格が活発で遊びにも積極的な明るいタイプ。
僕はそれを“アクティブタイプ”と呼んでいる。

麻生さんは僕と同じ内気なタイプのようだ。
葵さんのような子がいわゆるアクティブタイプになるだろう。

僕も麻生さんも内気なタイプなので予想通りに会話が滞ってしまった。
僕は共通の必死に話題を模索する。

麻生さんは絵を観るのが好きらしい。
その中でもフェルメールがお気に入りとのことだった。

何を隠そう、僕もフェルメールは大好きな画家だったので、話は自然に盛り上がる。

そのころ、ちょうど渋谷でフェルメール展が開催されていた。
そこで僕たちは日曜日にそこへ一緒に行くことになった。

この展開に、本来なら喜ぶところなのかもしれないが、僕の心は困惑していた。

女の子と二人だけで出掛けるなんて初めてのことだった。

自慢にもならないが、僕は今まで母親以外の女の子とまともに話すらしたことないのだ。
それなのに、いきなりデートだなんて……。