「パパ、早く!」
「遥芽《はるか》、少し待ってくれよ」

「パパあ、だらしないなあ」

長い石階段をどんどん先に登る愛娘は呆れた顔で僕を睨んでいる。

涼芽《スズカ》、もうすぐ遥芽は十七になるよ。
君と僕が出逢った時と同じ歳だよ。早いもんだ。

君がいなくなって、もう十年も経つんだね。

遥芽は日に日に君に似てくるよ。
特に屈託のない笑顔と生意気な口のきき方が君にそっくりだ。

「パパさ、もう少し日頃から運動したほうがいいよ」
「そうだね。でもどうしてこんな丘の上にお墓を建てたんだろうね?」

息を切らしながら階段の上にいる遥芽を見上げる。

「ママが海を見るのが好きだったからでしょ。ていうか君《・》が建てたんでしょ、ママのお墓」

困ったことに最近、僕のことを“君”呼ばわりするようになった。
涼芽がDNAに書き込んでおいたのだろうか?

その公園墓地は広く海を見下ろせる丘の上にあった。
海岸沿いにある長い石階段を登ったところに彼女は永い眠りについている。
目の前に海が開けている絶景の場所だった。

水平線に見える船のまわりの水面が眩しく光る。
暖かな海風がとても心地よかった。

「うーん、いつ来てもここからの景色が絶景だね。気持ちいいな」

遥芽は海を眺めながら大きく背伸びをした。

その姿を見て思わず胸が締め付けられる。
その屈託の無い笑顔が高校時代の彼女の顔とダブったのだ。

気がつくと僕はじっと遥芽の顔を見つめていた。
それに遥芽が気づいた。

「なあに娘に見惚れてんの?」

遥芽が僕を上目で睨んでいた。
昔、同じようなことを誰かに言われた気がする。

「いや、遥芽もだんだんママに似てきたなって思ってさ」

その何気ない言葉が思いの外嬉しかったのか、遥芽は僕の腕にしがみ付いてきた。

「どうしたんだよ?」
「あたし、ママに似て綺麗になってきた?」

遥芽が僕の顔をすっと覘き込む。

「ああ。綺麗になったよ」

本当に涼芽に似てきたと思う。
特に悪戯っぽく笑った顔がそっくりだ。


「ママに似てるからって娘に惚れるなよ」

そう言いながら僕の腕をさらに強く掴んだ。

「なに馬鹿なこと言ってるんだ」

ちくしょう! 
憎たらしいほどそっくりだ。

「おい、苦しいよ」

でも遥芽は黙ったまま僕の腕を強く掴んで離さない。

「遥芽、どうした?」