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  ハルくんへ

  君がこれを読んでいる時、
  私は手術中なのかな

  手術の日のこと、言わなくてごめんね
  ハルくん、知らなかったみたいだから言えなかった

  怒らないでね
  言ったら、私も君も普通でいられなくなると思ったんだ
  ごめんね


  あ、小説読んだよ
  ヒロインは死なないでハッピーエンドにしてくれたんだね

  もしかして、私を元気づけてくれるためだったりして?
  やっぱり物語はパッピーエンドがいいね

  これを読んですごく元気になったよ
  ありがとう

  君には前からずっとお手紙を書こうと思ってたんだよ
  だからこのハルノートを借りて
  君にメッセージを残すことにしました。
  これは私から君へのファンレターです。


  一緒に授業を抜け出して海に行ったよね

  あの日は、一日だけ外出許可をもらったんだ。
  あの時、私は屋上に君が絶対いるって確信してたんだ。

  でも、本当に君がいるのを見た時
  やっぱ運命?
  とか思って涙が出るくらい嬉しかった


  ハルくんが私の手を引いて電車に乗ってくれた時
  すごく嬉しかったよ

  ルール破りが嫌いなハルくんだけど
  私のために一緒に学校をサボってくれた
  ありがとう

  あの日のことは私の一生の想い出になりました


  私は生まれつき心臓が悪くて
  学校にも行けない日が多かったから
  子供のころから人見知りがすごかったんだよ

  お友達と話すこともとっても怖くて
  人の顔はいつもまともに見られなくて

  君は私のことを羨ましいって言ってたよね

  人見知りをせず、誰とでも友達になれるとか

  実は私はすごく内気で気が弱い女の子なんだ

  中学の時までは入院も多かったし
  お友達も全然できなかった

  それで高校に入ってから自分を変えたんだよね
  友達をたくさん作りたくて

  でも友達に嫌われるのが怖くて
  自分に嘘もつくことも多かった

  一生懸命にずっと別の自分を作ってた気がする
  人に合わせて無理して笑ったりもした
  私も君と同じでとっても不器用だったから大変だったな

  でもハルくんと一緒いる時は違ったんだ

  心から笑えた
  いつも自然の私でいられた
  誰といる時よりも本当の私になれた

  私達が出逢えたのはやっぱり“運命”なんだって思ってる

  私、中学二年生を二回やったって言ったよね
  実は病気で長く入院してたからなんだ

  でも、そのおかげで君と同級生になれたんだよね

  そして今年からはクラスメイトだなんて
  これってやっぱり“運命”って思わない?


  生まれつき心臓の病気を持ってたから
  神様って残酷だな
  とか思ったりしたことあるんだ

  だから君に出逢えたのは
  私を病気にしてしまったことへの
  神様からのお詫びだと思ってるの

  だから私は病気を持って生まれてきたこと
  全然恨んでないよ

  それでね、今日、神様に
  もうひとつだけお願いしたんだ

  もう少しだけでいいから
  ハルくんと一緒にいさせて下さいって

  聞いてくれるといいな
  急にお願いしたからダメかもしれないけど

  いつだったか
  君らしい君ってどういうことか
  訊いてきたことがあったよね

  それ、教えてあげる

  君はとっても内気で気が弱くて
  とっても不器用な人見知り
  でも、いつも一生懸命で
  誰にでも優しい人

  私はそんなハルくんが大好きだよ

  そんな優しいハルくんのままでいてね
  いつまでも


  あと最後にもうひとつだけお願いがあります

  もし私がいなくなっても
  こんな私のことを
  ハルくんのことを想っていた私のことを
  憶えていてくれる?

  君が憶えていてくれたら
  ハルくんさえ憶えてくれていたら
  それでいいんだ

  私はそれで幸せだよ

  じゃあね

                  涼 芽