春を匂わせる少し強めの風がとても心地いい。
時間が止まっているような感じがした。

頭の上にポツリと何かが落ちた。
手に取ると薄いピンク色をした桜の花びらだった。

公園のあちらこちらに植えられた桜の花は少しずつ散り始めていた。

もう桜の季節も終わりのようだ。
そういえば今年は落ち着いて桜を見ることもなかった。

そっと瞼を閉じてみる。
彼女と出逢った時のことが瞼の裏に映し出される。

ほんの一か月前のことなのに、とても懐かしく感じた。

そういえば、僕はいつから彼女のことを好きになったのだろう。

リハーサルと称して初めて彼女とデートした日、僕は彼女の言葉にイラついて酷いことを言ってしまった。

あの時どうしてあんなにムキになって怒ったのか、今になってやっと理由が分かった気がする。

きっと僕はあの時、既に彼女に恋をしていたんだ。
だから僕の恋を応援してくれる彼女にイラついたんだろう。

僕はハルノートのページを一枚開いた。
これを屋上に忘れた時から全てが始まったんだ。

パラパラとページめくる。
僕の希望を込めて書き直したラストシーンを彼女は読んでくれただろうか。

彼女が書いてくれたスズメのサイン。
思わず笑いが漏れる。
やっぱりどう見てもペンギンだろ。

最後のページにさしかかったところで手が止まった。

 ――これは・・・・・。

最後のページ、そこにまだ見ていない新しいメッセージが綴られていた。

まぎれもなく彼女の字だった。

彼女が僕にメッシージを残してくれたんだ。

心臓がきゅっと締め付けられた。

ところどころ崩れている文字に胸が熱くなる。

痛みがあったのか、もしくは手に力が入らなかったのか。
とても懸命に書かれたことものであることがいやでもわかった。