そう、いつも太陽のごとく明るく笑っているのが彼女だ。

「あの子、最後に『お母さん、ありがとう』そして『行って来ます』って。あんなに毅然とした涼芽は久しぶりに見た。きっとあなたのお蔭だと思う」

「いえ、僕は本当に何も・・・・・」

結局、僕は彼女には何をしてあげられたのだろうか? 

僕は彼女を勇気付けることができたのだろうか?

「あの子はね・・・実は中学の時まではすごく内気で、気が弱くて、引っ込み思案で、それは大変だったのよ」

確かにそれは前に彼女本人から聞いたことがある。
でもそれは謙遜か冗談かと思っていた。

「あの子は小さい時から病院の入退院を繰り返していたから、学校でもなかなか友達ができなかったのね。中学に上がった時は少しクラスにお友達ができたのだけれど、中学二年の時に大きな手術をしてね。一年間の内、ほとんどが入院生活だったからその年は進級できなかったの。だからせっかくできたクラスの友達とも離れ離れになってしまって、それも大きかったかな。それからはますます引っ込み思案になってしまったの」

僕はその話に棒で殴られたようなショックを受けた。

進級できなかったのは病気のせいだったんだ。
彼女がグレてただなんていう噂を信じていた自分の愚かさが情けなかった。

『病気になったから君に出逢えたんだよ』

彼女のその言葉を思い出した。

そういうことだったんだ。
僕はその意味をやっと理解した。

その後もお母さんは彼女の中学時代の話を聞かせてくれた。

二回目の中学二年生の時は一コ下の学校の友達とはあまり馴染めなかったこと。
そしてしばらく学校に行けなくなってしまった時期があったこと。

「でも高校に入ってからは性格がすごく変わってね。いや、懸命に自分を変えたんだと思う。とっても明るく、積極的になって、友達もたくさん作るようになって」

「はい。本当に彼女は太陽のように明るくて、僕はとても羨ましかったです」

「男の子にもけっこう人気あったのよ」

お母さんはハッとしたように慌てて声を止めた。

「あ、ごめんなさい、私ったら。こんな話、聞くのは嫌よね?」
「いえ大丈夫です。彼女、確かに男子からも人気ありましたよ」

僕は思わず苦笑いをした。

「よかった。でもあの子、男の子を好きになるってことがよく分からなかったみたいなの。精神的に成長が遅かったのかしらね」