翌日、部屋の東の窓から朝日が強く射し込んだ。
空には雲ひとつ無く、とても青く澄んでいた。

学校の授業が終わるのが待ち遠しかった。

今日も病院へお見舞いに行こう。約束だから。

授業中はずっと彼女に話す話題を考えていた。
授業が終わるとすぐにバス停へと向かった。
早く彼女に逢いたい、そう思いながら病院行きのバスに揺られていた。

午後の病院のエントランスホールは診察待ちのお年寄りでいっぱいだった。

彼女の病室の前に着くと、ちょっと悪戯心が疼いた。

突然顔を出してびっくりさせてやろうと思い、病室のドアを静かに開けてそっと中を覘く。
しかしベッドには彼女の姿は無かった。
お母さんの姿も見えない。

 ――あれ?

すぐに病室を飛び出る。
例えようもない不安感に襲われながら僕はナースセンターを訪ねた。

「すいません。あの・・・葵・・・葵涼芽さんは・・・」

カウンターの受付に座っていた看護師さんが僕を見てちょっと怪訝な顔をする。

「あの・・・ご家族の方ですか?」
「あ・・・いえ、僕は・・・」

その時、反対側の廊下の奥から僕を呼ぶ声がした。

「冴木君?」

遠目だったがすぐに彼女のお母さんだと分かった。

「冴木君、今日も来てくれたの?」

びっくりした顔で僕の姿を見まわす。

「あの・・・葵さんは?」

お母さんは僕の態度を見て何かを察したように俯いた。

「あの子は今、手術室に入ってる」

 ――手術室?

お母さんの言葉が素直に頭の中に入らない。
「手術ってどういうことですか?」

僕は思わず叫んだ。

「あの子、やっぱり今日の手術のこと、あなたに言ってなかったのね。ごめんなさい」
「手術って・・・まさか今日だったんですか?」

お母さんは黙って頷いた。

目の前が一瞬で真っ暗になる。
そして愕然と肩を落とした。

どうして・・・どうして・・・。
僕は心の中で何度も叫んだ。

どうして言ってくれなかったんだ!
僕はまだ、彼女に何もしてあげられてない・・・・・。

大きな罪悪感と後悔の思いが僕を襲った。

「ごめんなさい。僕、今日が手術だなんて知らなくて」

お母さんは黙って首を横に振った。

「あなたは何も悪くないわ。ありがとう」

僕は何も言えずにただ茫然とした。


お母さんは僕を病院内にあるカフェに誘った。