「そうだね」

彼女は小さく笑った。

「ごめんね。気を使わせて」

僕は黙ったまま首を横に振った。

「私、小さいころから何回か手術はしてるんだけど、最近また発作が多くなってきてね。もう限界みたい、私の心臓。ずっとがんばってくれてたんだけどね・・・・・」

彼女はそっと胸に手を置いた。
僕は言葉が出せなかった。

彼女はすっと僕の手を取った。
そして掴んだ僕の手を自分の胸へ当てた。

 ――え?

「動いてる? 私の心臓・・・・・」

僕の心臓が止まりそうだった。

でも、確かに僕の手には彼女の鼓動と温もりが伝わった。

「うん。動いてるよ」
「よかった」

その彼女の笑顔は今までになく眩しいものだった。
 

「怖いよ・・・」

そう呟いた彼女は急に悲しい顔になる。

「死ぬの・・・怖いよ・・・」

初めて見る彼女の弱々しい姿だった。

「発作が起きた時、いつもこのまま死んじゃうのかなって・・・思っちゃうの・・・。夜、部屋の電気を消すと、深いに闇に吸い込まれそうで怖くて消せないの・・・。このまま眠って、ずっと目が覚めなかったらどうしようって思っちゃうの・・・」

彼女の声は震えていた。

今、分かった。彼女の笑顔がどうして眩しかったのか。

彼女はいつ襲ってくるのか分からない“死”という運命の怖さから逃れるため、精一杯の笑顔を貫いていた。
笑顔はその怖さに打ち勝つためのものだった。

ずっと、ずっとその怖さと戦っていたんだ。
たった一人で。

当たり前のことだ。
本当に当たり前なことだったんだ。

死ぬのが怖くない人間なんているはずがない。
それが十八歳の女の子ならなおさらのことだ。

でも僕は何もしてあげることができない。

「ごめん・・・僕、何もできなくて」

それしか言葉にできなかった。

彼女は黙ったまま首を横に振った。

「ごめんね・・・」

僕はもう一度謝った。
謝るだけで何もしてあげられない自分がもどかしかった。

「ねえ。死んだら・・・死んじゃったら、君と逢えない寂しさも感じなくなっちゃうのかな・・・」

思わず彼女を見た。
笑っていた。瞳に涙をいっぱい浮かべて。

何か言ってあげたかったが、言葉が出て来なかった。

「もっと一緒にいたいよ・・・・・」

彼女の身体が震えていた。

「君と・・・ハルくんともっと一緒にいたいよ・・・・・」