「その子はいつ死ぬか分からない病気の恐怖とずっと戦ってたんだ。でもそんなことは表に出さず、いつも明るく元気に振舞ってた。まわりの友達やお母さんたちに心配かけないようにね」

「そういう話は嫌いだな。暗いじゃん。ヒロインはもっと天然で能天気な性格なんだよ」
「違う!」

僕は激しく首を横に振る。

「彼女はそんな性格じゃないよ」

そう。彼女はそんな能天気な性格じゃない。
それは自分が一番よく知っているはずだ。

「ううん。彼女は小さい時から病気だったから自分の人生なんか諦めてたんだ。だからいつも明るくて、病気の怖さも死の恐怖も感じない強い子になったの」

「そんなの嘘だろ!」
「嘘じゃないよ!」

「いつ死ぬのか分からないなんて怖くないはずないよ」
「そんなことないよ! 平気だもん!」
「怖いに決まってるじゃないか。不安で辛いに決まってるよ!」

気がつくと、僕も彼女も叫んでいた。

彼女は急に黙り込み、そのまま俯いた。

「どうして・・・・・そんなこと言うの?」

彼女の呟くような小さな声に僕は我に還った。
彼女の目はいっぱいの涙で潤んでいた。 

――え?

彼女の身体は小刻みに震えていた。

「私が今までどんな気持ちで過ごしてきたか、知ってるの?・・・・・」

掠れて絞り出すような声だった。

僕はとんでもないことを言ってしまったことに気がついた。

「ごめん。僕、そんなつもりで言ったんじゃ・・・・・」

僕は後悔しながら慌てて謝った。

「ごめん。私もそんなつもりじゃ・・・・・」

彼女は言葉に詰まり、それ以上何も言わなかった。
僕も何も言えなかった。

「あのね・・・・・」

彼女が口を開いた。
わずかに聞こえるくらいの小さな声で。

「何?」

「私ね、死ぬかもしれない・・・・・」

「うん」

僕はあまり驚くことはなかった。
お母さんから聞いていて覚悟はしていたから。

「驚かないんだ?」

僕の反応がちょっと意外だったようだ。

僕は返事ができず、黙ったまま俯いていた。

「そうか。知ってたんだ・・・・・」

「ごめん。お母さんから聞いたんだ。大きな手術を受けなければならないこと。知らないことにしてくれって言われたけど・・・・・」

「ダメじゃん」

そう。ダメだ。
僕は心の中でお母さんに謝った。

「僕に無理だよ。知らないフリなんて・・・・・」