彼と初めて会話をしたのは制服が冬服に変わってまだ間もないころだ。
会話と言っても一言だけなんだけど。
美術の授業前の休み時間だった。
私は別のクラスの子との話に夢中になり、遅刻しそうになって慌てて教室に飛び込んだ。
その瞬間だ、頭にガツンと衝撃が走った。
男の子と出会い頭にぶつかったのだ。
「あ、ごめん!」
その男の子は慌てて謝ってきた。
ぶつかったのは私のほうなのに。
「いえ、私が……」
私も謝ろうとすると、彼はすっと振り返えりそそくさと向こうへ行ってしまった。
誰、あの子?
うちのクラスじゃないよね。
しかも愛想ないし。
そう思いながら私は呆気に取られてしばらくぼーっと突っ立っていた。
「どしたの?」
声を掛けてきたのは親友の優香だ。
「今、教室の入り口で男の子とぶつかっちゃってさ。あの子誰だっけ? うちのクラスじゃないよね?」
私はさっきの男の子を目で追いながら問いかける。
「ああ、マジメくんね。B組の子でしょ」
「マジメくん?」
誰? それ?
「B組の人がみんなそう呼んるよ。まあ、確かにマジメそうだよね」
「マジメくんね……。でもどうしてB組の子がA組にいるの?」
「これから美術でしょ」
「あ?」
そうだ。この学校では選択式の芸術授業のひとつである美術は隣のB組と合同で受けているのだった。
「何? あんた、あの子に興味あるの?」
優香の思いもよらないツッコミに手を横に振りながら慌てて否定した。
「そうだよね。顔はまあまあだけど、なんか真面目でつまんなそうな子だよね」
うーん。確かに。
私は苦笑いをしながら同調した。
翌日、よく晴れていながらも秋の肌寒さを感じる朝だった。
学校に行く途中の通学路、私はひとりのお婆さんが道を渡れないで困っているのを見つけた。
この通りは車が多いわりに信号や横断歩道が少ない。
学校に行くのとは反対方向だった。
でも私は渡るのを手伝おうと思ってお婆さんのところに向かった。
すると私の横からスッと男の子が現れた。
いきなりだったので驚いたが、その男の子が知っている顔だったのでさらに驚いた。
そう、B組のマジメくんだった。
彼は何も言わずにそのお婆さんの前に立つと、すっと手を挙げて車を止めた。
彼はお婆さんに声を掛けることもなく、黙ったまま道を渡り始めた。
会話と言っても一言だけなんだけど。
美術の授業前の休み時間だった。
私は別のクラスの子との話に夢中になり、遅刻しそうになって慌てて教室に飛び込んだ。
その瞬間だ、頭にガツンと衝撃が走った。
男の子と出会い頭にぶつかったのだ。
「あ、ごめん!」
その男の子は慌てて謝ってきた。
ぶつかったのは私のほうなのに。
「いえ、私が……」
私も謝ろうとすると、彼はすっと振り返えりそそくさと向こうへ行ってしまった。
誰、あの子?
うちのクラスじゃないよね。
しかも愛想ないし。
そう思いながら私は呆気に取られてしばらくぼーっと突っ立っていた。
「どしたの?」
声を掛けてきたのは親友の優香だ。
「今、教室の入り口で男の子とぶつかっちゃってさ。あの子誰だっけ? うちのクラスじゃないよね?」
私はさっきの男の子を目で追いながら問いかける。
「ああ、マジメくんね。B組の子でしょ」
「マジメくん?」
誰? それ?
「B組の人がみんなそう呼んるよ。まあ、確かにマジメそうだよね」
「マジメくんね……。でもどうしてB組の子がA組にいるの?」
「これから美術でしょ」
「あ?」
そうだ。この学校では選択式の芸術授業のひとつである美術は隣のB組と合同で受けているのだった。
「何? あんた、あの子に興味あるの?」
優香の思いもよらないツッコミに手を横に振りながら慌てて否定した。
「そうだよね。顔はまあまあだけど、なんか真面目でつまんなそうな子だよね」
うーん。確かに。
私は苦笑いをしながら同調した。
翌日、よく晴れていながらも秋の肌寒さを感じる朝だった。
学校に行く途中の通学路、私はひとりのお婆さんが道を渡れないで困っているのを見つけた。
この通りは車が多いわりに信号や横断歩道が少ない。
学校に行くのとは反対方向だった。
でも私は渡るのを手伝おうと思ってお婆さんのところに向かった。
すると私の横からスッと男の子が現れた。
いきなりだったので驚いたが、その男の子が知っている顔だったのでさらに驚いた。
そう、B組のマジメくんだった。
彼は何も言わずにそのお婆さんの前に立つと、すっと手を挙げて車を止めた。
彼はお婆さんに声を掛けることもなく、黙ったまま道を渡り始めた。