僕は校門を出ると真っ直ぐにバス停へと走った。

病院方面への時刻表を見ると、次のバスまであと一時間以上あった。
この時間帯は病院方面のバスは極端に少なかった。

ふざけるな!

心の中で叫ぶと急いで学校に引き返した。

校庭の水道前で部活の練習を終えたサッカー部員のグループが見つける。その中に顔を洗っている武田君がいた。

「ごめん、武田君。自転車貸して!」

自分でもびっくりするような大きな声で叫んだ。
その尋常でないその声に武田君は全てを察したような顔で笑った。

「分かった。使え!」

武田君はそう言いながら自転車のキーを僕に放り投げた。

「体育館裏の自転車置き場だ」
「ありがとう!」
キーを空中でキャッチすると、そのまま体育館裏へと駆け出す。

まわりの景色は全く目に入らない。
足の感覚はとうに無くなっていた。

でも不思議と疲れは感じなかった。
彼女に会いたいという気持ちだけが僕の身体を動かしていた。

病院の明かりが見えてきた。
この煌々と照らされる光によって日が暮れていることに気づかされた。

時計は夜の七時を回っている。
受付がある正面玄関のドアは既に閉まっていた。

まずい。もう閉まっちゃったのかな?

僕は救急入口のある通用口へと回った。
そこで受付口で守衛の人に呼び止められた。

「どちらに?」
「あの……お見舞いなんですが……」

「患者さんのご家族のかたですか?」
「あの……いいえ。友達が入院してて……」
「申し訳ありません。もう面会時間外なので、患者さんのご家族以外は面会はできません」

僕は目の前が真っ暗になる。

「すいません。どうしても会いたいんです」
「申し訳ありません。規則ですので……」

受付の人に頑なに拒まれ、がっくりとして帰ろうした時だった。

「冴木君?」

通路の奥のほうから聞き覚えのある女性の声が響いた。
彼女のお母さんだ。ちょうど通りかかってくれたようだ。

「お母さん?」
「ありがとう。来てくれたの? どうしたの、その汗?」

気がついたら僕の身体は汗だくになっていた。

「すいません。今まで来れなくて。今日は面会時間が過ぎているみたいなんで明日また来ます」

お母さんは慌てたように首を横に振った。

「今日、会ってあげてくれる? ちょっと待ってて」