僕をからかっているのだろうか。
だとしたらかなり冗談がキツい。

でも冗談を言っているようには見えなかった。
まして麻生さんはそんな性格ではない。

僕の頭の中は混乱して整理がつかない。

「冴木くん、ずっと勘違いしてる」
「勘違いって・・・・・何を?」

「冴木くんが私に声を掛けてくれた日のこと、憶えてる?」
「もちろん。うるう日だよね。僕がなかなか告白の言葉を出せなかったから葵さんが僕に叫んだんだ。『言いたいこと言いなよ』って。あの時はびっくりしたな」

「・・・・・違うよ」
「違うって・・・何が?」

「あれ、スズメちゃんは冴木くんに言ったんじゃないよ。私に言ったんだよ」
「麻生さんに? どうして?」

「あの日、私は冴木くんに告白しようとしてたんだよ」

僕の頭の中はさらにこんがらがる。


「ごめん。どういうこと?」

僕が告白した日に、麻生さんも僕に告白しようとしていたってこと?
そんな偶然があるものなのだろうか?

「でも冴木くんの目の前まで行ったら、私、何も言えなくなっちゃったんだ。だからそのまま素通りしちゃったんだよね」

確かに憶えている。
麻生さんが近づいてきて、僕の前を通り過ぎた時のことを。

「そしたら冴木くんから声を掛けてくれた。あの時は心臓が止まるくらいびっくりしたよ」

その時の様子が頭の中でフラッシュバックされる。
そうか。だからあの時、麻生さんはあんなに驚いていたんだ。

「私、ズズメちゃんに冴木くんのことを相談したの。そしたら、うるう日は特別な日だから、告白するならこの日にするように言われたの」
「え? うるう日に告白ってまさか・・・」

ずっと解けなかった謎が今、解けた。
あの日・・・・二月二十九日に僕と麻生さんが同時に告白しようとしたのは偶然じゃなかった。
彼女がペン子さんだったから。
彼女は僕の小説を読んで、うるう日が僕にとって特別な日だと知っていたから彼女はこの日を選んだんだ。

僕は馬鹿だ。
ずっと僕の応援をし続けてくれていたのは彼女だったんだ。

僕は何もわかっちゃいなかった。
彼女がどんな思いでいたのか?

そのくせ僕は何だ?
彼女が重い病気と分かったとたんに怖くて彼女に会えなくなった。
自分の気持ちの都合ばかりで本当に彼女のことを考えていなかった。

僕は自分が無性に許せなくなった。