「どうしてそんなこと・・・・・」
「分かるよ。教室にいる時もスズメちゃんの席ばっかり見てるし・・・」

情けないな。
そんなにバレバレだったんだ。
僕は思わず自嘲した。

「ごめん」
「別にいいよ。私達、ちゃんと付き合っていたわけじゃないしね・・・」

麻生さんはバツが悪い感じで苦笑いをした。

「本当にごめん。でも実は僕、葵さんにはフラれたんだ」
「ええ?」

麻生さんは思いの外にびっくりしていた。

「ごめん。そんなに驚いた?」
「好きって言ったの? スズメちゃんに」
「ごめん」
「そんなに謝らなくてもいいよ。でも、そしたらスズメちゃん、何て?」
「僕とは付き合えないって、そう言われちゃった」

麻生さんは首を横に振った。

「そんなはずない。スズメちゃんも冴木くんのことが好きなんだよ」
 
僕はそれを聞いて驚くより笑ってしまった。

「それはないよ」

そう、そんなはずはない。
はっきり僕とは付き合えないって言われたんだから。

「スズメちゃんが付き合えないって言ったのは本心じゃないよ」

麻生さんまで何を言い出すんだろう?
お母さんといい、武田君といい、みんな意味の分からないことを言う。

「どうしてそんなこと分かるの?」

僕がそう訊くと麻生さんは答えに困ったように俯いた。

「知ってたから・・・」

麻生さんは小さな声で呟くように言った。

「知ってた?」

そうか。どうやら麻生さんも彼女の心臓のことを知っているらしい。

「葵さんの病気のことだね。確かに自分の病気のことを気にしてたみたいだけど、それは関係ないと思う。もし僕のこと本当に好きだったら僕の恋の応援なんてしてないよ」

「違うよ!」

叫ぶような麻生さんの声に僕は思わず後退った。

「違うって・・・何が?」

「そうじゃないの」

麻生さんは首を横に振った。

「だから、何が?」

「スズメちゃん、知ってたんだよ」
「知ってたって・・・何を?」

麻生さんはまたしばらく黙り込んだ。

「私が・・・私が冴木くんを好きだったっていうこと」

 ――え?

麻生さんの言葉がすぐに頭の中に入らなかった。

「麻生さん、何・・・言ってるの?」

「スズメちゃん、私が冴木くんのこと好きだって知ってたから・・・私の気持ちを知ってたから冴木くんとは付き合えないって言ったんだよ」