麻生さんがペン子さんなのか確かめるんだ。


僕はカバンからハルノートを取り出した。
そして、恐る恐る麻生さんにそれを見せた。

「麻生さん。このノート、見たことある・・・・・よね?」
「ううん。初めてだけど・・・」

 ――あれ?

惚けてるようには見えなかった。
ということはペン子さんは麻生さんじゃなかったのか。

僕はがっかりしながらハルノートを仕舞おうとした。

「それ、見せてもらってもいい?」
「え?」

少し照れ臭かったがハルノートを麻生さんに渡した。
麻生さんがパラパラとハルノートをめくり始めた。

「これ、小説?」
「うん。僕が書いた小説なんだ。あまり(・・・)おもしろく・・・いや、全然《・・》おもしろくないと思うけど・・・・・」

僕は慌てて言い直した。

「冴木くん、すごいね。小説書けるの?」
「書けるなんて大袈裟なものじゃないよ。真似事程度だよ」

麻生さんはそのまましばらく読み続けてた。
だんだんと麻生さんの顔色が変わってくるのが分かった。

そんなにつまらなかっただろうか。
僕は急に恥ずかしくなった。

やっぱり見せなければよかったかな。
僕はちょっと後悔した。

最後のページで麻生さんの手が止まった。
何かをじっと見つめている。

しまった。その最後のページにはペン子さんが書いてくれたメッセージが書いてあるんだ。

「ごめん。そこに書いてあるメッセージ、このノートを拾ってくれた人が書いてくれたんだ。でもそれが誰だか分からなくて・・・・・」
「あの・・・」

麻生さんは驚いたような顔で僕を見た。

「このサイン、スズメちゃんのだよね」

 ――え?

僕は麻生さんが指したところを覗く。
それはメッセージの最後に書かれたペンギンのイラストだ。

「葵さんの・・・サイン?」
「そうだよ。知らなかった? クラス内では有名なサインだよ」

「このペンギンが?」
「あ、これね、ペンギンじゃなくってスズメなんだって。こんな太ったスズメがいたら絶対飛べないよって言ったら、すごく怒られた」

じゃあ、ペン子さんは葵さんってこと? 
この小説を読んでくれて、小説を書き続けるように応援してくれたのもみんな彼女? 

「冴木くん、スズメちゃんのこと好きなんでしょ?」

また唐突に訊かれた。
かすがに麻生さんには答えに困る質問だ。