放課後の部活も終わり、カバンを取りに教室に戻る。
窓からは眩しい夕日が差し込んでいた。

「冴木くん」

聞き覚えのある女の子の声に振り向く。
驚いたことに声の主は麻生さんだった。

話をするのはとても久しぶりだ。

麻生さんとはあのデートの日以来、ほとんど話をしていなかった。

友達になって欲しいって言ったのは僕のほうなのに、僕から話しかけることはなかった。

「今、帰り?」
「うん。さっき部活終わったんだ。麻生さんも?」

後ろめたい気持ちでいっぱいだったが、平然を装った。
僕は酷いヤツだ。

「あ・・・・・うん」

戸惑ったように口ごもっていた。
そう言えば麻生さんは部活に入ってたっけ?

「実は冴木くんのこと待ってたんだ」

 ――え?

 またなんの冗談だろうかと思った。

「今日の昼休み、屋上で武田君とお弁当食べてたでしょ? 何を話したの?」

どうやら武田君と一緒のところを見ていたらしい。

「いや、誘われたから一緒に昼ごはん食べただけで、特に何も・・・・・」
「そう・・・・・」
 
さすがに葵さんにフラれたことを話したなんて言えない。

麻生さんは何か言いたげな様子だったが、そのまま俯いて黙ってしまった。
僕が何か話しかけないと――そう思えば思うほど焦った。

「あの・・・・・元気だった?」

僕が言えるのはこの程度の質問だ。
もっと気の利いたこと言えないのか、僕は。

「うん。元気だよ。冴木くん、最初にデートした日から一回も誘ってくれなかったけどね」
「ごめん。僕、もう呆れられて嫌われたかと思って」

「どうしてそんなこと思うの?」
「あのデートの時、僕かったでしょ。緊張してろくに話もできなかった。全然楽しくなかったでしょ」
「そんなことないよ。私も緊張しっぱなしで喋れなかったんだ」

僕はフッと気が抜けたように笑った。

「じゃあ、麻生さんが喋らなかったのはつまらなかったからじゃないの?」

麻生さんがそれを聞いてくすっと笑う。

「冴木くんも最初のデートだったんでしょ。私もだったんだ。緊張するのは当たり前だよね」

この時、麻生さんとの壁がすっと無くなったように感じた。

僕はずっと呆れられてたと思っていた。
よかった。嫌われてたわけではなかったんだ。

そうだ。ハルノートのことを聞いてみよう。

今なら聞ける。