すると、武田君は今度は吹き出すように笑い出した。

「ああ、すっきりした!」

そう言いながら両腕を上げて大きく背伸びをした。

一体何なんだろう? 
武田君の考えていることが全然分からなかった。

「ハル! スズメのこと、大事にしろよな」
「あの、だから僕、葵さんにフラれたんだよ」

「もう、スズメのこと、好きじゃなくなったのか?」

慌てるように僕は横に首を振った。
そんなことある筈ないじゃないか。

「じゃあ、もう一度自分の正直な気持ちを伝えろ!」

いい加減にして欲しいという気持ちになった。
そんなことを言われても無理だ。
一度フラれた子にもう一度告白するような勇気は僕にはない。

「おーい。克也ここにいたのか。早くグランドいこうぜ!」

向こうで武田君を呼ぶ大きな声が聞こえた。
武田君の友達だろうか。二人組の男子が手を挙げてこちらを見ていた。

「おう、今行く!」

武田君はそれにも増す大きな声で返すと、すっと立ち上がった。

「じゃあなハル。また昼飯一緒に食おうぜ」

そう言うと武田君は友達にほうへと走っていった。

どうして武田君はあんなことを言うんだろう。
自分だって彼女のことが好きなんだろうに。

もう一度自分の気持ちを伝えろ、だなんて無茶を言う。
彼女だって迷惑だろう。

それに病気の彼女に僕に何ができることは何もない。
同情をして彼女が喜ぶとも思わない。

僕は半分も減っていない弁当の蓋をそのまま閉じた。