「ようこそ、浅場南高校書籍部へ。私は、あなたを歓迎するわ!」

「……はい?」

 校門の前、唐突に歓迎されてしまった僕は、呆気に取られた声を上げていた。

 けれど、それも仕方がないことだと、僕は自分を弁護したい。だって、いきなり現れた見ず知らずの二年生に、いきなり入部を認められてしまったのだ。しかも、僕の意思とは関係なく……。
 これで動じないほど、僕は精神が強くも鈍くもない。それに、こんな状況に放りこまれたら、大抵の人間は僕と似たような反応をすると思う。

 ちなみに、僕を混乱の渦に落とし込んだ張本人は、手を差し伸べたまま悦に入った顔をしていた。感情が表に出やすい人のようで、「決まった!」と顔に書いてあった。
 何だか目の前の先輩のやり切った感が無性にイラッときて、僕の頭が急速に回り始める。

 一方、自己満足を終えたらしいその二年生は、差し出していた手で校舎の方を指さした。

「さあ、悠里君! 部長も待っているはずだから、早速、書籍部の部室へ行きましょう。案内するわ」

「いいえ、それには及びません」

 昇降口へ向かって歩き出そうとした二年の先輩へ、僕は拒否の意を込めて首を横に振った。
 二年生は不思議そうに立ち止まり、僕の顔を見る。きょとんとした顔は、あどけない感じでなかなかかわいらしい。

 ただ、何をどう勘違いしたのか、その顔はすぐに喜色満面に輝き始めた。
 嫌な予感がして僕が一歩下がると、彼女はそれを上回る勢いで詰め寄ってきた。

「すごいわ、悠里君! もう書籍部がどこにあるか知っていたのね。やっぱり私の目に間違いはなかったわ。あなたこそ、書籍部のエースになれる逸材よ!」

 興奮した様子で、早口に「すごい、すごい!」と連呼する二年生。彼女の斜め上を行く超理解に、僕は思わずずっこけた。

「部室を知っているなら話は早いわ。さあ、このまま顧問の先生のところへ、入部届を出しに行きましょう!」

「ああもう、違いますよ! さっきのは、『書籍部には入らない』って意味で言ったんです!」

 勝手に盛り上がって話を大きくする二年生へ、僕は負けずに声を大にして主張した。
 このままでは、僕の意思を完全無視したまま入部させられかねない。なので、はっきりと言葉にして拒絶する。
 すると、喜び飛び跳ねていた二年生は、一転してショックを受けた表情のまま固まってしまった。これが漫画なら、背後に「ガーン!」というオノマトペが表示されていることだろう。

「じゃあ、僕はこれで失礼します」

 若干の罪悪感を覚えつつも、茫然自失とした二年生を残し、その場から立ち去る。
 疲れているのに、さらに疲れることをしてしまった。深いため息をつきながら校門を出ようとする。
 その時、腰の辺りに何かがぶつかって来たような強い衝撃を受けた。