あの日の彼女との出会い――いや、再会を、僕は一生忘れないだろう。

 あれは、僕が高校生になった日のことだった。

 つつがなく高校の入学式を終えた放課後、桜の花びら舞う昇降口から校門までの道は、様々な色で溢れていた。
 道の脇で列を成す机。ユニフォームや思い思いの仮装で、メガホン片手に声を張り上げる先輩たち。浅場南(あさばみなみ)高校伝統、新入生歓迎の部活動勧誘街道だ。

 十人十色。目に入る光景も、耳から聞こえる声も、まるで虹のようにたくさんの色で煌いている。

 先輩たちに出迎えられた新入生は、その熱量に圧倒され、同時に目を輝かせていた。みんな、華やかで激しい勧誘合戦を前に、これから始まる高校生活への期待を膨らませているようだった。

 そんな新入生の中にあって、二日酔いのサラリーマンみたいに疲れ切った顔の生徒がひとり……。言うまでもないかもしれないが、僕のことだ。

 ここはあえて、当時の気持ちを正直に言っておこう。この日の僕にとって、伝統の勧誘街道は、騒音のトンネル以外の何者でもなかった。ちょっと静かにしてくれ、と本気で叫びたかった。

 無論、僕だって普段であれば、活気があっていいなと、この勧誘合戦を肯定的に思っただろう。僕だって健全な一高校生であり、これからの高校生活に人並みの期待を抱いていたのだ。青春の象徴ともいえる部活動に興味がないわけがない。

 だけど、この日の僕は心身ともに疲れ切っていて、そんな心の余裕は微塵も残っていなかった。新入生総代の挨拶なんていう人生初の大役を果たし、とっくに精根尽き果てた出がらしとなっていたからだ。

 早く帰って、ベッドに倒れ込みたい。それで、朝までぐっすり眠りたい。
 僕の心は、そんな即物的な欲求でいっぱいだった。

 勧誘の声に耳を傾けることなく、僕は人の群れを掻き分けて校門を目指した。差し出されるチラシをなけなしの気力を振り絞った愛想笑いで断りつつ、どうにか勧誘街道を切り抜ける。そうして人波を抜け、ホッと一息ついたその瞬間――彼女が僕の前に姿を現したのだ。