放課後の教室で窓の外を見ると、最近は日暮れが早く窓越しにはオレンジ色の夕焼けが綺麗だった。

 夕焼けを見ていたら、目の前には付き合って半年になる彼氏の翔太先輩が立っていた。

 秘かに片想いしていた、翔太先輩から告白されて付き合い始めた。

 私の一方的な片想いだとばかり思っていたから、告白された時は本当にビックリした。

 だけどいざ付き合ってみると、どうすればいいのか分からず……翔太先輩を困らせてばかりいる。

 他愛もない会話ならいくらでも出来るけど、キスを迫られると恥ずかしくなり、いつも顔を背けてしまう。

「ねぇ、澄香(スミカ)キスしていい?」

 何でそんなこと聞くんだろうと思ったけど……いざキスされるって思うと、やっぱり恥ずかしくなってしまう。

 翔太先輩の顔が近付いてくると、私は恥ずかしくて思わず反らした。

「なぁ、いつになったらキスさせてくれんの?」

「もう少しだけ……待って。なんか恥ずかしくて」

「ぶっちゃけ俺、限界なんだけど……」

 男の人はそうだよね……でも女の子は恥ずかしいんだよ。それは私だけかもしれないけど。

 翔太先輩から反らした体を窓の方に向けると、さっきまでの夕焼けが一転して雪が降っていた。

 もうすぐクリスマス……クリスマスの日は、翔太先輩のキスを受け入れようと思っている。

 翔太先輩は、私の肩に手を置いて……笑顔で口を開いた。

「帰るか」

「はい……翔太先輩、ごめんなさい」

「そりゃあ少しは傷つくけど、俺は澄香が嫌がることはしたくないから……その気になるまで気長に待つよ」

 翔太先輩は優しいな……本当は受験生で勉強とか大変なのに、私との時間を作ってくれる。

 それなのに、私は『恥ずかしい』を理由にキスを拒んでばかりいる。翔太先輩は、何処の高校へ行くんだろう。

 私も翔太先輩と同じ高校へ行きたいと思ってる。



 私は翔太先輩と背中合わせになり口を開いた。

「私……翔太先輩のこと大好きです。だから……もう少しだけ待って下さい」

「うん、いいよ」

 そう言って翔太先輩は私の頭をクシャクシャと撫でてきた。実は翔太先輩の、この行為が私は大好き。

 だから……思い切って聞いて見ることにした。

「翔太先輩は、何処の高校へ行くんですか?」

大谷(おおたに)高校が第一志望だよ」

 大谷高校って──男子校だよね。それじゃあ……私は翔太先輩と同じ高校へは行けないのか。そう思うと翔太先輩と一緒に帰っているのに寂しさを感じた。

 雪はすぐに止んだけど……私の心の中には降り続けた。どうして……一年遅く生まれたんだろう?

 翔太先輩があと1年遅く生まれるか……私が1年早く生まれていれば、こんなに切ない気持ちにはならなかったのに……。

 二人で志望校の話とかも出来るのに……私は家に着くと自分の部屋へ走りベッドの中で泣いた。

 翔太先輩と一緒に過ごせる時間はあと少し。学年が違うから、学校でもずっと一緒にいるのは……無理なのに。

 私はずっと翔太先輩を傷つけていたの?自分の恥ずかしいという感情を、翔太先輩に押し付けていたことに今頃になって気付いた。


 ついに……クリスマスイブの日を迎えてまった。今日は寒くて、天気予報では夜には雪が降るって言っていた。

 今日のデートで、私はファーストキスをしたいと思っている。今日こそは……逃げずに翔太先輩の愛を受け止めようと思っている。

 まだ中学生だからデートは昼間だけって両親と約束している。翔太先輩は受験生だから本当はデートしてる場合じゃないはずなのに。

 受験勉強にも息抜きが必要だと言って、デートの時間を作ってくれた。私はそれだけで嬉しいんだけど……キスをするって決意したら、何故かそわそわして気持ちが落ち着かない。

 私にとって家族以外の人と過す、初めてのクリスマス。親から夜間外出は禁止されているので、昼間しか翔太先輩と逢えないのは残念だけど、楽しい時間になればいい。

 中学生だから仕方ないけど……本音はイルミネーションの街中を恋人と歩きたかった。高校生になるまではその夢はお預け。

 門限は17時だから、その前に帰らなければならない。夜は去年までと同じく、家族でホームパーティー。

 彼氏が出来たのに、なんか虚しいって気持ちなのが本音だ。翔太先輩からメールが届いたので、すぐに携帯を開いて見た。


 メールの内容は【近くまで来たから】だった。

 私はいつでも出掛けられるように、準備万端にしていたから、急いで家を飛び出した。外は寒くて手袋をしているのに、すぐに指先が冷えた。

「──翔太先輩、寒いから手を繋いでもいいですか」

「喜んで。澄香からそんなこと言うなんて、珍しいな」

 確かにそうだよね……初めて自分から手を繋ぎたいなんて言ってしまった。

 ちょっと恥ずかしくて、顔が火照ってきたけど、自分から言った以上、拒否は出来ないので翔太先輩と手を繋いだ。

 翔太先輩の手は温かくて繋いでいて、心地良いので、ずっと繋いでいたいなって思った。

「澄香は何が食べたい?」

「ケーキ」

「澄香はそう言うと思ってたから、美味しいケーキ屋さん見つけておいたんだ。今から行こう」

「はい」

 翔太先輩に手を引かれ、目的のケーキ屋さんに向かった。やはりクリスマスイブなだけあって、お店は混雑していた。こんなに並んでいたら何時間待ち?と感じてしまう。

「そんなに待ち時間は無いと思うよ。クリスマスケーキの持ち帰りで並んでいる人が多いだけ。今日は俺らみたいに、店内で食べようとしてる人は……ほとんど居ないから」

「そうなんですか?」

 言われてみれば、大きな箱を抱えた人が次々に店を後にしている。

 今日はクリスマスイブだから、此所のケーキを買いに来た人がこれだけいるってことか。

 行列は前はどんどん居なく無くなり、後ろに新たに出来るを繰り返している。

 あたしは、翔太先輩から勧められた『イチゴのミルフィーユ』とカフェオレを注文、翔太先輩はイチゴタルトとミルクティーを注文して店内に入った。


 席にケーキとドリンクが届くと、テンションが上がった。見るからに美味しそうなんだもん。

 あたしと翔太先輩は、声を合わせて『いただきます』と言って、ケーキを食べ始めた。

「美味しい」

「だろう、一番はイチゴショートなんだけど、家では今夜も家ではイチゴショートになるから、俺はタルトにしたんだ」

「家もイチゴショートだよ。近所のコンビニに頼んだから、あたしはイチゴショートでも良かったかも」

「やっぱり、男と女はスイーツに関する考えが違うんだな。改めて思った」

「そうだね。基本的に女の子は甘いものは別腹だからね」

「そろそろ、他の甘い別腹をあげようかな」

 翔太先輩の言いたいことが何なのか? すぐに分かった。

 あたしも今日は何があっても逃げないって──覚悟をしている。いつも恥ずかしくて、逃げてばかりだったが、今日は何があっても逃げないって決意をした。

 ケーキ屋さんを出ると、あたし達は再び歩き出した。次に向かった場所は水族館だった。門限の5時まであと3時間しかないから、映画は難しいと思って水族館にした。

 水族館は思ってたよりも暗くて、翔太先輩の顔が近付いてくるのが分かった。

 えっ!? こんな所で……だけど、逃げないって決めてるんだけど、誰かに見られたら恥ずかしいって気持ちの方が強い。







 だけど翔太先輩の抑える力が強くて、身動きが取れない。あたしはそっと目を閉じた。

 翔太先輩の唇があたしの唇と重なった瞬間、彼の優しさを感じた。ファーストキスは凄くドキドキした。

 門限も迫ってきたから今日のデートは終了。翔太先輩に家まで送ってもらった。

「澄香、今日はありがとうな。楽しかった♪」

「あたしも楽しかったです。受験頑張って下さい」

「この前は大谷高校志望って言ったけど、俺の本当の志望校【青華(せいか)高校】なんだ」

 えっ!? 青華高校?私の志望校と一緒だ。

「この前はどうして嘘を付いたんですか?」

「ゴメン。お前が恥ずかしがってなかなかキスさせてくれないからさ、友達が男子校に行くって言えば……彼女も焦るかもしれないから嘘をついてしまったんだ。本当にゴメン」

「翔太先輩って意外と意地悪な所があるんですね。でも男子校じゃなくて安心しました。翔太先輩と同じ高校に行けるんですね。でも夜のデートはあと2年待って下さいね」

「2年は長いけど、楽しみに待ってるよ」

 玄関前でもう一度軽く触れ合うだけのキスをした。この時……あたしは翔太先輩の確かな温もりを感じた。


 去年のクリスマスは受験生という理由で、外出すら許されなくて家族だけで過ごした。

 それでも翔太先輩は家の前まで来てくれて……部屋の窓から彼の顔を見れたから、あたしはそれだけで満足したけど、翔太先輩は不満だったろうな。

 そして高校生になった今年から門限は8時になったので、多少の夜遊びは可能になった。

 夢だったイルミネーションを見ることだって、出来るから気持ちが高まっている。

 翔太先輩との待ち合わせ場所に着くと、先輩の方が待ちきれなかったらしく先に来ていた。

 クリスマスぐらいは門限なしにして貰いたくて、親に必死にお願いしたら門限を無しにしてくれた。

 今日は翔太先輩とゆっくりデート出来る。それだけで嬉しくなった。

 今日はあたしの全てを翔太に捧げたいと思っている。門限が無いなんて、次はいつになるか分らないから、今日のチャンスを逃す訳にはいかない。

 別に箱入り娘って感じに育てられた訳じゃないが、最近は物騒な事件が多いため心配性な両親が門限を早めにしているだけで決して厳しい両親って訳ではない。

 あたしは最近やっと、翔太先輩ではなく翔太って呼べるようになった。

 太陽が沈んでからのデートなんて、初めてだからワクワクしている。自分の全てを捧げるって決めてから、何となく気持ちがソワソワして落ち着きが無くなっている。
翔太とディナーを済ませた後で、向かったのはイルミネーションで輝いている噴水のある公園。

 クリスマスにこの場所でキスしたカップルは永遠に結ばれるって言い伝えがあるので、この場所を選んだ。

「好きだよ、翔太」

「俺も澄香が、好きだ」

 そう言った途端、翔太の唇があたしの唇に触れた。そして、翔太はあたしの口の中に舌を絡めてきた。

「……うっん、はぁん」

 翔太のキスはさらに情熱的になり、あたしも翔太の口の中に舌を入れてきた。こんなに激しいキスをしたのは初めてだった。

 それからあたし達はラブホテルに行って初めて体を重ね合わせた。私の身体中にキスマークがついたのは、言うまでもない。
 翔太に愛されてることを改めて実感した私は、やがて深い眠りについてしまうのだった。




【END】
 澄香と付き合い始めて2年半になる。だけど……キスから先に進めていない。

 澄香の門限が壁になり……なかなかその先に進めない。今日こそは絶対に……澄香とキス以上の関係になるってみせる。嫌だとは言わせない。

  愛しの彼女に返品不可能なプレゼントをあげる。こっちは夜のデートを2年も待たされたんだから。

 澄香に拒否する権利なんて無い。ファーストキスなら2年前のクリスマスにしたけど……あれは、お子ちゃまのキスに過ぎない。

 今日は大人のキスを教えてあげるんだから覚悟してろよ……今日は門限が無いって聞いたから最大のチャンスだ。

 次はいつになるか分かんないから……チャンスを逃す訳にはいかない。

 彼女は否定しているが俺から見れば、澄香は箱入り娘みたいに育てられてるから門限が早いと思っている。

 澄香は頑なに箱入りを否定し、最近はなにかと変な事件が多く両親が心配だからと言ってたが、俺の目にはそれだけには見えない。

 でも何より一番嬉しいのは……やっと翔太って呼んでくれるようになったこと。

 太陽が沈んでからのデートは、初めてだから……ワクワクしている。

 自分の全てを捧げるって決めてから……楽しみでしょうがない。

 澄香とディナーを済ませた後で、向かったのはイルミネーションで輝いている噴水のある公園。

 クリスマスに、ここでキスしたカップルは永遠に結ばれるって、言い伝えがあるので、俺たちはこの場所を選んだ。

「好きだよ、翔太」

「俺も澄香が好きだ」

 そして俺は澄香にキスをした。触れるだけのキスじゃ、物足りなく……舌を絡める激しいキスをした。

「……うっん、はぁん」

 澄香の気持ち良さそうな声が快感だった。こんなに激しいキスをしたのは初めてだった。

 それから俺は澄香をラブホテルに連れて行き……初めて体を重ね合わせた。
 
 身体中にキスマークをつけ、俺からの返品不可能なプレゼントを……澄香は喜んで受け取ってくれたのだった。






【END】

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