「だけどそういうことって、むやみに他人に共感を求めることじゃないだろ」

「そう……そうだったね、間違えた。だけど自意識過剰だなんて」

「被害者意識が強すぎるんだよ」



私は我慢できなくなって立ち上がった。がたん、と、図書館の椅子にしては大げさな音が鳴る。これはダメだ、どんなに相川との空気は居心地がよくても、私の心の奥が膿んでいる。傷口が荒らされている。彼の目も見たくない、許せない。


「実際に何があったか、知らないでしょ?どんな傷があるのか知らないでしょ?それなのに自意識過剰とか、被害者意識が強いとか、信じられない。せめてそれは、私のことを知り尽くした人が言うことだわ」


私の勢いに押されたのか、相川は応戦してこなかった。ただ、驚いたように私の目を見ている。ああ私には分かる、彼は今頭を切り替えている、言いたいことを言うのではなく、私をなだめることに。それが私には辛い。彼は理解しようと困った顔をしてるんじゃない、私は彼に理解してもらえない。


「あり得ない」


今まで相川と時間を過ごしたことをすべて忘れるくらい、私は傷ついて憤っていた。擦り切れるような声で出てきたのは、悲痛な捨て台詞だった。ああ、分かってもらえなかった。

私はそれ以降、図書室へ行かなくなった。渡り廊下を歩くたびに、彼は今頃図書館にいるのだろうと思いながらまっすぐ家に帰って勉強する日々を重ねた。

初めて相川に会った日のことを思い出す。3年生に上がったばかりのころ、たまたま用事があって図書室へ行った。そこで相川を見た。天気のいい日だった。おだやかに本を読んでいる彼が、クラスメイトとは対照的に感じられて、目が離せなかった。

目が合うと、私が逸らす前に彼は座りたかったどうぞ、と言った。その言葉には吸引力がある、と思ったことを覚えている。


ジー、と暖房の鈍い音がする。ちょっと他のことに集中してしまえばすぐに意識から出ていくほどのわずかな音だけれど、耳を澄ませばいつもそこにあって、スイッチが切られたときは教室に静寂が広がって気づく。あ、暖房の音がしていたのだ、と。


それから卒業の日まで続いた私の日々は、暖房の切れた世界だった。