「本当に好きだったんだ。だから傷つけられるのが怖くて逃げたんだ。横平に受け入れられないかもしれないと思うと怖くて逃げたくなったんだ」
横平と週末に会う約束をした金曜日、あるクラスの女子が、「横平はよく高木陽太のことが嫌いだと泣いている、自分はそれが許せなくて彼女をいじめている」と言った。
俺はそれを真に受けた。ただ、それだけだ。
14歳の時の横平はもっと表情が乏しくて、黒髪で、下を見がちだった。今とは全然違うと思いながら、鼻の頭を赤くした横平を見ると、かつてを彷彿とさせる冷静な表情を彼女は少し緩めた。
「もういいよ。わたしはあなたが思うほど、昔傷ついたことを引きずってない。本当はあの日、陽太に転校のことを伝えてお礼を言うつもりだったけど、それができなくても、なんとなく立ち直っていくことができたんだから」
けれど横平は笑うことはなく、俺を許すような、突き放すような話をする。風が吹いて、彼女の胸元にある緑のリボンが揺れる。
「それにわたしは、新しく人を好きになった。だからもう、陽太は関係ないのよ」
後者だった。懐かしい日々が今完全に思い出へと形を変えようとしている。否、本当はずっと前にただの思い出になっていたことを知る。横平の言葉が透明な矢のようになり、俺をまっすぐ貫いたのを感じる。
いつかちゃんと言葉にできなかった気持ちが葬られていく。
すげぇ、と言葉にしそうになった。世の中の恋をする者たちは、いつもこんな気持ちを経験しているなんて偉大すぎる。俺はおそらく初めて経験した気持ちに、試合に負けた悔しさとは違う種類の涙が溢れそうになっている。
俺は冷めているんじゃない、何も知らなかっただけだ。
粉々になるようで、それでいて形を残したままつぶされたようで、自分の心が今どんなかたちでどんな顔をしているのか、自分でまったくわからない。
だけど受け入れていかなければならないのか。そっか、と返事できたのかできてないのか分からなくなっていると横平が陽太、と言った。
「陽太の気持ちわかるよ。だけどこのつらさが、誰かを好きになって結ばれたときの感動を保つのよ」
わたしが言うことじゃないか、と横平は自嘲気味に笑った。そして俺を見て、片手は玄関に手をかけた。そして彼女は史上最大に美しい微笑みを俺に向けた。
「卒業おめでとう。元気でね」
横平と週末に会う約束をした金曜日、あるクラスの女子が、「横平はよく高木陽太のことが嫌いだと泣いている、自分はそれが許せなくて彼女をいじめている」と言った。
俺はそれを真に受けた。ただ、それだけだ。
14歳の時の横平はもっと表情が乏しくて、黒髪で、下を見がちだった。今とは全然違うと思いながら、鼻の頭を赤くした横平を見ると、かつてを彷彿とさせる冷静な表情を彼女は少し緩めた。
「もういいよ。わたしはあなたが思うほど、昔傷ついたことを引きずってない。本当はあの日、陽太に転校のことを伝えてお礼を言うつもりだったけど、それができなくても、なんとなく立ち直っていくことができたんだから」
けれど横平は笑うことはなく、俺を許すような、突き放すような話をする。風が吹いて、彼女の胸元にある緑のリボンが揺れる。
「それにわたしは、新しく人を好きになった。だからもう、陽太は関係ないのよ」
後者だった。懐かしい日々が今完全に思い出へと形を変えようとしている。否、本当はずっと前にただの思い出になっていたことを知る。横平の言葉が透明な矢のようになり、俺をまっすぐ貫いたのを感じる。
いつかちゃんと言葉にできなかった気持ちが葬られていく。
すげぇ、と言葉にしそうになった。世の中の恋をする者たちは、いつもこんな気持ちを経験しているなんて偉大すぎる。俺はおそらく初めて経験した気持ちに、試合に負けた悔しさとは違う種類の涙が溢れそうになっている。
俺は冷めているんじゃない、何も知らなかっただけだ。
粉々になるようで、それでいて形を残したままつぶされたようで、自分の心が今どんなかたちでどんな顔をしているのか、自分でまったくわからない。
だけど受け入れていかなければならないのか。そっか、と返事できたのかできてないのか分からなくなっていると横平が陽太、と言った。
「陽太の気持ちわかるよ。だけどこのつらさが、誰かを好きになって結ばれたときの感動を保つのよ」
わたしが言うことじゃないか、と横平は自嘲気味に笑った。そして俺を見て、片手は玄関に手をかけた。そして彼女は史上最大に美しい微笑みを俺に向けた。
「卒業おめでとう。元気でね」