カフェとはいえ、よくあるチェーン店である。フラペチーノがおいしいと有名で、高校生もよく来るお店。
 でもフラペチーノはほぼアイスである。この真冬には少し寒い。
 よって美久が選んだのはあたたかなラテだった。ホットのティーラテ。
 席についてフタを開けるとハートのアートが書いてあった。それだけのことなのに嬉しくなってしまう。
「快くんはなににしたの?」
 快の前にも同じようなホットの飲み物があった。美久は何気なく質問する。
「カフェオレだよ。好きなんだ」
「そうなんだ。お砂糖入れるの?」
「いや、ミルクだけ」
 飲み物の好みに関することなんて普通の話かもしれないけれど、新鮮だった。
 なにしろご飯も一緒に食べたことがない。クラスも違うし。
 今日も一緒に食べる予定はなかったけれど。
 日曜日なので、早めに解散して帰ったほうがいいという話になったのだ。よって家で夕ご飯の予定。
 ティーラテをすすると、ほわっとあたたかい液体がおなかに落ちていく感覚がした。とても心地良く、内から体をあたためてくれる。
 本屋さんは暖房が効いていたけれど、それでも外を歩いたりもしたので少し体が冷えていたようだ。
「いやー、買えて嬉しいな」
 快はカフェオレを飲みながらさっき買った本の包みを開けて、中身を取り出した。
 ぱらぱらとめくる。中身についてはさっき簡単に聞いていた。
「快くんが好きなエピソードとかあるの?」
 聞いてから、エピソード、という表現は昔の本にふさわしいのかな、とちょっと疑問になってしまったけれど、快は気にしなかったらしい。
「何本かしか読んだことがないんだけど……ここかな。辺境の町に住んでいる主人公、まぁ、作者だよな。そのひとが大きい街へ歩いていくっていう話なんだけど、まぁ、言っちゃえばただそれだけなんだけど。でも道のりの描写がすごく綺麗なんだよ。初夏の話でさ、新緑の美しさとかが……」
 快はよっぽどその話が好きなのだろう。勢いよく話し出した。
 美久はにこにことそれを聞く。
 内容も勿論楽しい。けれどそれを『大好きだ』という顔で話す快がとてもきらきらしているから。そっちのほうがより楽しくなってしまったのだ。
 快は一通り話してから、「あ」と言ってちょっと気まずげになった。
「語っちゃったな……悪い」
 ぱたりと本を閉じて、カフェオレをひとくちすする。本について話している間に少し冷めてしまっただろうけれど。
「どうして謝るの? とっても楽しいのに」
「そ、そっか?」
 美久の言葉にはまた笑ってくれた。はにかむように微笑む。
 快のこういう顔も好きだなぁ、と思う。優しい彼の表情にぴったりなのだ。
 どきどきしてしまうけれど、同時にそばで見られていることに嬉しさと安らぎのようなものまで感じられる、不思議な感覚。