「あー、寒いよなー、今が一番寒い時期なんだとか」
「そうだね、大寒……だっけ」
「そうそう。でもここを越したらあったかくなってくんだよな。早くあったかくならないかな」
 何気ない話をしながら道を行く。駅に向かって。
 昇降口で快と落ち合って、駅へ向かって歩きながら、心臓はばくばくして破裂しそうだった。
 それは快も多少なり同じだろうに、そんな様子ちっとも見せずに、普通の会話をしてくれる。
 返事が気になっているのは快のほうが強いだろうに。
 駅までそう遠くないのだ。十分ほど歩けば着いてしまう。そして駅からの電車は逆方向なのだ。

 そろそろ言わないと。

 美久はごくりと唾を飲んだ。
 思い切って口を開く。
 ただし、直接的なことではない。
「あの、駅の反対側にいいものがあるの。良かったら見て行かない?」
 快はちょっと驚いたようだった。道すがらで言われると思っていたのかもしれない。
 だけど美久のそれが、『道で言うような簡単な話ではない』と思って提案したのをわかってくれたのだろう。ふ、と目元を緩めて頷いてくれた。
「ああ、いいよ」
 それで駅をそのまま通り抜けて、逆側の出口に出た。
「こっち、あんま来ないんだよな」
 普段使う駅でも、逆側の出口というのは普段使わないところなので新鮮だ。美久も偶然用事でこちらの出口へ出ることになって、それで見つけたのだし。
「うん、私も郵便局に行く用事があって見つけたの」
 出口から階段を使って降りて、駅前へ。美久が先導して歩く形になる。
 それを新鮮だ、と思った。
 今までは留依にしろ、快にしろ。ついていく形ばかりだったのに。
 その事実は示しているようだった。
 美久がもう、誰かのあとについていくばかりの女の子ではなくなったことを。