「美久ちゃん、昔モンブラン好きだったわよね」
 言われて、美久はびっくりした。
 確かにそうだ。モンブランは子供の頃から好物だ。
 でも家族や友達には知られていても、留依のお母さんなんて、たまにしか会わなかったひとに知られていたとは思わなかった。
「は、はい。好きです……今も……」
「それなら良かったわ。昔、留依と一緒にケーキ屋さんに行ったでしょう。そのときのことを思い出したの」
 それは美久も覚えていることだった。確かに留依のお母さんと留依とケーキを食べに行ったことがあった。美久のお母さんの都合が悪かったとか、そういう事情だったはずだ。
 それを覚えていてくれたとは。
 美久の胸が嬉しさにあたたかくなった。
「ではごゆっくりどうぞ」
 ティーポットから紅茶を注いでくれて、留依のお母さんは出ていった。
 改めて美久と留依はケーキに向き直る。
「いただきます!」
 留依は早速モンブランにフォークを入れた。茶色いクリームをすくって口へ運んで、「おいしい~!」と顔を綻ばせている。
 美久も「ごちそうになります」と言って、同じようにクリームをひとくち食べた。
 濃厚なマロンクリームの甘さが口いっぱいに広がる。留依と同じように顔が綻んでしまう。
「これおいしいね! 近くにあるケーキ屋さんかな。一回食べたんだけど、ここのやつ、ほかのもおいしかったんだ」
 あたたかな紅茶を挟みながらモンブランを食べ進めていく。休憩中なのだ、話題は勉強のことから学校のことに移っていた。
「え!? こ、こく、はく!?」
 美久はひとつの話題に目を丸くしてしまった。思わずモンブランが喉に詰まるところだったくらい驚いた。
 留依が「これは秘密なんだけど」と前置きして、教えてくれたこと。
 それは同じクラスの男子に告白されたという話だった。