「敬語、いらないよ。同い年なんだから」
 歩くうちに快に言われたので、美久はやはり緊張してしまった。男子とため口で話すことなどやっぱりほとんどない。
 小学校とかの頃はそれが普通だったのに。
 今となってはこうなってしまっていることが、美久は不思議に思ってしまう。
「う、うん……じゃあ、そうする、ね」
「ああ。そっちのほうがずっといいな」
 美久の拙いしゃべり方に、快は微笑んでくれた。
 快はおしゃべりというわけではないが、寡黙ではないようだ。ぽつぽつと話してくれた。
 美久はそれを聞いて、たまに返事をしたり相槌を打ったりするくらいになってしまったのだけど、それは何故か、心地良いもの、と感じられたのだった。
「お、ここだな。久しぶりだ」
「久しぶり、なの?」
 美久はちょっと快を見上げた。背の高い快は、背の低い美久からすると見上げる格好になるのだ。二十センチくらいは背が違うかもしれない。
「ああ。ちょっと部活が忙しくて」
「そうなんだ」
 部活、といった。何部なんだろう。
 美久は思ったけれど、それは聞けなかった。まだこちらからあれこれ話題を出すのは勇気が必要だった。
 でも合同体育のバスケではあれほど活躍していたのだから、バスケ部なのかもしれない。その割には、あまり「バスケ部にカッコいいひとがいて」と女子の間で話題になっていないのが謎だったけれど。
 恋に興味津々な年頃なのだ。イケメン男子でしかもスポーツができるとなれば、すぐ注目の的になるのに。
 でも今はとりあえず本屋である。二人で中に入った。
 しっとりと落ちついた、本の空気が包んでくる。美久にとっては安心できるような、それでいてどこか期待にどきどきするような空気である。