今更ながら、実感した。
 男の子と、特に学校などの理由もなく隣同士座っていることに。
 でもそれは嫌な意味でも感覚でもなくて。
 むしろくすぐったくはあるけれど、どこか心地いいともいえるものだった。
「どこかに用事があったのか?」
 紅茶もなくなりかけた頃に、快が聞いてきた。すっかり落ちついた美久はそのまま頷く。
「はい。本屋さんに行くつもりで……」
「えっ、そうなのか」
 その答えはごく普通だっただろうに、快はちょっと驚いた、という様子を見せた。
 どうしてだろう、と美久が思った直後。快はぱっと明るい顔になった。
「実は俺も本屋に行くところだったんだよ。その先の蔓屋(つるや)だろう」
「あ、は、はい。そうなんですね」
 このへんで一番大きな本屋さん。蔓屋書店、という。
 行き先がかちあっているなんて、珍しいことだ。いや、確かにあのとき彼は図書室にいたのだから、本が好きなんだろうけれど。
「もし良かったら、一緒に行かないか?」

 ……えっ。

 美久の心臓が、どきっとまた跳ねてしまった。
 当たり前のように連れ立っていこうということだろう。
 彼の言葉を借りれば『1ミリくらい知り合い』なのだ。別に構わない。
 けれどちょっとだけためらってしまう。
 男子と二人で出掛けたことなどない。
 いや、これは偶然出会って「なんだ、行き先が一緒なんだな」とするだけだから、別になにもおかしなことなどではないのだけど。
 嫌ではないけれど、緊張してしまう。
 慣れない事態過ぎて。
 それを払拭してくれたのは、快の優しい笑みだった。
「またヘンなひとに声、かけられると困るし」
 それで美久は理解した。さっきみたいなひとがまた現れないかと気を使ってくれたのだ。
 またしても胸が熱くなってしまう。これほど優しい男のひとに、美久は会ったことがなかった。
 こんなふうにしてもらって、嬉しくないはずがない。

 行こう。行ってみよう。

 美久の心は決まった。
 快は優しいひとだ。おまけに自分を心配してくれている。
 それなら緊張してしまうかもしれないけれど、その優しさに応えよう。
 それから、もうひとつ。
「じゃ、じゃあ……ご一緒、に」
 思い切って返事をした。受け入れる返事を。
 美久の返事に、快は笑った。明るい笑みで。
「良かった。もう立てる? じゃ、行こう」
 ベンチをあとにして、空になったペットボトルをゴミ箱に捨てて、歩きだした。
 早くもどきどきしてきてしまったけれど、美久の胸には違うことがあった。
 もうひとつの理由。
 単純に彼の行き先が気になったから。
 いや、行き先は本屋さんに決まっている。
 その先でなにを見るのか、という行き先だ。
 本が好きな彼が、どの本を見に行くのか。
 読書好きな美久は気になってしまったのである。