椿の花もそろそろ終わりである。真冬が見ごろだから。
 だからここの椿を見に来るデートも終わりに近づいているのかもしれない、と美久は思った。
 帰り道に、例の椿の遊歩道へ行った。静かに話せるからだ。
「椿もそろそろ終わりかな」
 駅を出て、遊歩道に入って、回りを見て歩きながら快が言った。その声はちょっと寂しそう。
「そうだね。でもあと半月くらいで桜になるよ」
 ほら、と美久が指差したもの。それは桜の樹。遊歩道の両脇に植えられている桜は、どれも大きくて立派なものだ。
 あと半月もすれば、きっと。
「お、もうつぼみが……」
 快も気付いたようだ。声が明るくなった。
 半月先ではまだ色づいてもいない。
 けれど枝の先に、小さいけれどしっかりとした確かなふくらみがついている。
「咲いたら見に来たいな」
 美久の言ったことには、笑みと、きゅっと握られる手の感触が返ってきた。
「ああ、来よう」
 椿を見ながら遊歩道の奥まで来て、ベンチに辿り着いた。幸い、ひとはいなかった。
 腰かけて、美久はバッグに手を入れた。
 快もなにが出てくるかはわかり切っているだろう。それでもちょっと構えるような空気が漂う。
 美久も同じだったけれど。なにしろ付き合っているひとにチョコを渡すなんて初めてなのだから。喜んでくれるとわかっていても、緊張はしてしまう。
「快くん、これ、もらってくれる?」
 差し出したのは箱だった。平たい箱。
 箱にはピンク色の包み紙に、赤いリボンは二重。薄い赤と濃い赤の細いリボンが重ねて結ばれている、とても凝ったラッピング。
 勿論、留依が提案して手伝ってくれたものだ。この特別な日にふさわしいものになったと思う。
「ありがとう。すっげぇ凝ってるな」
 快は驚いたような声を出して受け取ってくれた。手の上のそれを、まじまじと見つめてくる。そう見られてはちょっと恥ずかしいのだが。
「留依ちゃんが手伝ってくれて……」
「そうなのか」
 それで留依と一緒にチョコを作ったのだとか、ラッピングは留依が提案してくれたのだとか話した。
 その間に快は「開けていいか」と聞いて、中身を見てくれて。
「うまい……」
 ひとくち食べて、感嘆の声で言ってくれた。噛みしめるような声だった。
「……ありがとう」
 快に手作りのものを食べてもらうなんて初めてだった。美久はくすぐったくなってしまう。
 心から言ってくれているのがわかるのだ。味見はしていても口に合うかはわからなかったから、おいしいと思ってくれたことに、ほっとする。
「美久はお菓子作り、得意なのか?」
「う、うん。割と好きなの」
「じゃあ今度、また作ってくれよ」
 そうまで言われては嬉しくなってしまう。心の中がぽかぽかしてきてたまらない。