しかしすぐに休憩というわけにはいかない。まずは使った道具を洗って片付けなければ。
ボウルに、まな板、包丁、へら……洗うものはいっぱいあった。
紙でくっついた生地を拭って、スポンジと洗剤で洗って、拭いて……。協力して片付けていく。
「へー、いきなり洗うんじゃないんだねぇ」
へらやボウルにくっついたブラウニー生地を、キッチンペーパーでまず拭ってきれいにするのだと教えて、その作業をしながら留依は感心したという様子だった。
「それだと洗うのが大変になるし、洗剤や水もたくさん使っちゃうからね」
「知恵だねぇ」
その片付けも終わり、リビングへ移動した。
「お疲れ様」
美久が出したのはマグカップに入った紅茶。留依は「ありがとう」とにこっと笑ってくれた。
「いやー、楽しかったなぁ」
「ほんと? それなら良かったよ」
美久は紅茶に砂糖を入れて、ひとくち飲んだ。留依はミルクもプラスして入れていた。まろやかなのが好きなのだ。
留依が満足した、という声だったので美久まで嬉しくなってしまう。
バレンタインに重要なのはできあがるチョコレートだけではない。
それを作ったり、もしくは買ってくるなら選んだり……そういう気持ちも大切なものだから。
「きっと喜んでくれるよね」
留依が言ったのは、自分の彼氏である青柳のこともあっただろうけれど、もう半分は美久の彼氏の快のこともあっただろう。
美久も自信たっぷりに「うん!」と肯定する。
絶対に喜んでくれるという確信があった。
前の美久なら「うまくいくかな……」「好みじゃなかったら……」なんてマイナス思考になってしまっていたかもしれない。
でも今は、もう昔の美久とは違う。
快は甘いものが嫌いでないどころか、むしろ好きなほうであるし、なにより美久が頑張って作ったことだってわかってくれるはず。
それを喜んでくれないような、冷たいひとであるものか。
美久が強くなったのと、それから快に対する信頼。
両方から自信が持てるのだ。
「ラッピングするのも楽しいだろうなー」
留依はテーブルの上に、買ってきたラッピング用品を並べて、どれにしようかといじくっている。実に楽しそうな表情だった。
「留依ちゃんはセンスがいいから、教えてよ」
美久が言ったことには、留依が、にっと自信ありげに笑う。
「ありがと! じゃ、今度は私が手伝ってあげるね」
こうして得意なことを生かして手伝いあえるのが嬉しいし、幸せなことだと思う。
自分は快に寄り添いたい、と美久は思ったし、実際、快にそう伝えた。
でも美久のそばにいてくれるのは快だけではない。
たとえば、今一緒に過ごしている留依だってそうだ。
親友として、一番近くにいてくれる存在。
大切な存在は一人だけなはずはない。
そういうひとたちのことを大切にしていきたいと思うし、優しい気持ちで寄り添っていたいと思うようになったのだった。
快を好きになって知ったのは、成長だけではなく、そんな優しい気持ち。
快という優しい恋人だけでなく、いろんな、いろんな素敵なものを自分は手に入れたのだ。
こうして一緒に過ごしていると、強くそう感じられた。
「あ! 焼けたみたいだよ!」
そのとき、チン、とオーブンが鳴った。時間が来た合図だ。
「見てみよう!」
美久は立ち上がり、留依と一緒にいそいそとキッチンへ向かった。
オーブンから取り出し、こんがりといい具合に焼けたブラウニーを目にして喜びあう。
美久が噛みしめた『素敵なこと』。
それは今、漂ってくるブラウニーの甘い香りがそう感じさせてくれたのかもしれなかった。
きっとこれは、幸せの香り。
ボウルに、まな板、包丁、へら……洗うものはいっぱいあった。
紙でくっついた生地を拭って、スポンジと洗剤で洗って、拭いて……。協力して片付けていく。
「へー、いきなり洗うんじゃないんだねぇ」
へらやボウルにくっついたブラウニー生地を、キッチンペーパーでまず拭ってきれいにするのだと教えて、その作業をしながら留依は感心したという様子だった。
「それだと洗うのが大変になるし、洗剤や水もたくさん使っちゃうからね」
「知恵だねぇ」
その片付けも終わり、リビングへ移動した。
「お疲れ様」
美久が出したのはマグカップに入った紅茶。留依は「ありがとう」とにこっと笑ってくれた。
「いやー、楽しかったなぁ」
「ほんと? それなら良かったよ」
美久は紅茶に砂糖を入れて、ひとくち飲んだ。留依はミルクもプラスして入れていた。まろやかなのが好きなのだ。
留依が満足した、という声だったので美久まで嬉しくなってしまう。
バレンタインに重要なのはできあがるチョコレートだけではない。
それを作ったり、もしくは買ってくるなら選んだり……そういう気持ちも大切なものだから。
「きっと喜んでくれるよね」
留依が言ったのは、自分の彼氏である青柳のこともあっただろうけれど、もう半分は美久の彼氏の快のこともあっただろう。
美久も自信たっぷりに「うん!」と肯定する。
絶対に喜んでくれるという確信があった。
前の美久なら「うまくいくかな……」「好みじゃなかったら……」なんてマイナス思考になってしまっていたかもしれない。
でも今は、もう昔の美久とは違う。
快は甘いものが嫌いでないどころか、むしろ好きなほうであるし、なにより美久が頑張って作ったことだってわかってくれるはず。
それを喜んでくれないような、冷たいひとであるものか。
美久が強くなったのと、それから快に対する信頼。
両方から自信が持てるのだ。
「ラッピングするのも楽しいだろうなー」
留依はテーブルの上に、買ってきたラッピング用品を並べて、どれにしようかといじくっている。実に楽しそうな表情だった。
「留依ちゃんはセンスがいいから、教えてよ」
美久が言ったことには、留依が、にっと自信ありげに笑う。
「ありがと! じゃ、今度は私が手伝ってあげるね」
こうして得意なことを生かして手伝いあえるのが嬉しいし、幸せなことだと思う。
自分は快に寄り添いたい、と美久は思ったし、実際、快にそう伝えた。
でも美久のそばにいてくれるのは快だけではない。
たとえば、今一緒に過ごしている留依だってそうだ。
親友として、一番近くにいてくれる存在。
大切な存在は一人だけなはずはない。
そういうひとたちのことを大切にしていきたいと思うし、優しい気持ちで寄り添っていたいと思うようになったのだった。
快を好きになって知ったのは、成長だけではなく、そんな優しい気持ち。
快という優しい恋人だけでなく、いろんな、いろんな素敵なものを自分は手に入れたのだ。
こうして一緒に過ごしていると、強くそう感じられた。
「あ! 焼けたみたいだよ!」
そのとき、チン、とオーブンが鳴った。時間が来た合図だ。
「見てみよう!」
美久は立ち上がり、留依と一緒にいそいそとキッチンへ向かった。
オーブンから取り出し、こんがりといい具合に焼けたブラウニーを目にして喜びあう。
美久が噛みしめた『素敵なこと』。
それは今、漂ってくるブラウニーの甘い香りがそう感じさせてくれたのかもしれなかった。
きっとこれは、幸せの香り。