その頃、女子の間で話題になっていることがあった。この時期定番の話題。
 そう、十日ほどあとに迫ったバレンタインである。
 片想いの子は勿論告白のチャンスであるし、彼氏がいる子にとっても大切な日である。
 どちらにしてもチョコレートを用意する日だ。
 学校では私立校だからか『お菓子の持ち込み禁止』という校則はないので、そのへんは心配しなくていい。美久の通っていた中学はお菓子禁止だったので、みんなこっそりやりとりしていたものだったけれど。
 バレンタイン。
 美久は勿論、快にあげることにしていた。彼女として当然のことだろう。
 そして料理が苦手ということもないので、なにか手作りしようと考えていた。
 そこへ声をかけてきたのは留依であった。
「美久、お菓子作りとか得意だったよね?」
 声をかけてきた意図はすぐにわかった。美久は頷く。
「得意かはわからないけど、できなくはないよ」
「またまた、謙遜しちゃって。昔クッキー作ってくれたじゃん」
 言われたことには恥ずかしくなってしまった。まだ小学生の頃のことだ。
「あ、あれは……お母さんが手伝ってほとんどやってくれたんだし……」
「えー? でもおいしかったって覚えてるよ。それでさ……」
 予想通り。チョコ作りを手伝ってほしいという話だった。
 断る理由もないどころか、ほかならぬ留依の頼みだ。
 それに楽しそうでもある。二人でチョコ作りができるなんて。
 とんとん拍子で、週末に美久の家で作ろうという話になった。
 週末の前に、なにを作るか相談して決めて、一回スーパーへ行って材料を買って……と計画は立っていく。
 わくわくする気持ちが高まっていく、週末前。
 まだ快からあの話はないけれど、バレンタイン。甘いチョコレートでちょっとでも気分が上向きになってくれたらいい、と。美久は留依とレシピの検索をしながら思ったのだった。