混んでいたのであまり長居はできない。次のひとに場所を譲らなければだ。
 よって早々にお店を出た。
 浅葱の体はぽかぽかしていた。ホットドリンクで体があたたまっただけではない。
 さっきの、蘇芳先輩にもらった『一口』だ。
 タピオカを吸うストロー。あれに触れてしまったことを考えるとまだ顔が赤くなってしまいそうだ。
 当たり前のように男の子とこんなことをするのは初めてだったのだ。
 情けない、と思う。
 実際にキスをしたわけでもあるまいに。
 思ってしまって、浅葱の頭の中はぼっと燃えた。
 キス。
 ……キス。
 考えたことがないはずはない。
 だってデートなのだ。もう付き合っているのだ。起こる可能性はあるだろう。
 いや、起こるほうが当然……なのかもしれない。なにしろ恋人同士なのだから。
 そして今日はクリスマス。そういうこと、にうってつけの日だろう。
 だからなんとなく予想というか期待はしてしまっていた。
 だが、だからといって心の準備なんてできるものではなくて。
 万一そんなことが起こってしまえば、平気でできるなんてちっとも思えなかった。
 絶対に赤くなってしまうし、緊張してしまうし……。
 でも。
 それ以上に、幸せなのだろうと、思う。
 だから嫌、どころか、したい、と思う。経験がないゆえに、そう思ってしまうのが恥ずかしすぎるだけで。
 そこでふと思った。

 蘇芳先輩はキス、とか、したことあるのかな。

 数秒考えて、また、ぼっと頭の中が熱くなってしまった。
 自分が蘇芳先輩とキスをするところがリアルに思い浮かんでしまったからだ。