浅葱はお店の前で目を白黒させてしまった。
 確かにここは自分が通って、おいしいらしい、と言ったところだけど。
 あのとき、話したのを、覚えていてくれたのだろうか?
 かっと胸が熱くなったけれどそれしかなかった。
 きっと顔も赤くなっただろう。その通りのことを蘇芳先輩に言われてしまった。
「顔が赤いぞ」
 からかうような言葉にもっと恥ずかしくなってしまう。そんなところを見られてしまったことに。
「か、からかわないで、ください……」
 顔を俯けたいのをなんとか我慢して浅葱は言った。
「はは、悪い悪い」
 蘇芳先輩はまたからかうように笑ったけれど直後、もっと浅葱の顔を熱くしてきた。
「かわいいなぁと思って」
 かぁっと顔が熱くなった。
 さっきまでの比ではなく顔が熱い。火照ったようだ。
 今度は「からかわないでください」も言えなかった。顔を真っ赤にして蘇芳先輩を見るしかない。
 そんな浅葱を見て蘇芳先輩はまた「悪い悪い」と笑って「さ、並ぼうぜ」と浅葱を促してきた。
 タピオカのお店はクリスマスということもあって、お客さんがそれなりに並んでいた。その最後尾に並ぶ。
 並んでいるのは若い男女が大半だった。カップルらしきひとたちも多い。
 ああ、あのときとは違う。
 本当に『デート』なんだ。
 思い知ってしまって、酔ったというのはこういう感覚なのかと思うほどに、頭の中が熱い。
 デートははじまったばかりだったのに既に浅葱は恥ずかしさやら嬉しさやら照れやら……そういうものでくらくらしてしまったのだった。