「さて、みんななんとなくわかっているとは思うが、今日は次期部長や役職を発表する」
 部員たちはそれぞれ美術室に並んでいる机についた。
 蘇芳先輩が教壇についてみんなに話をする役目だ。隣には副部長の森屋先輩や水野先生も控えている。
 ごくり、と張り詰めた空気が美術室に広がった。けれど今のこれは嫌なものではなくて。
「まず、来年の部長。金澤 瑞章(かなざわ みずあき)」
 呼ばれた名前は浅葱だけではなく、おそらくこの場の部員みんなが想像していたものだっただろう。
 二年生の金澤先輩本人も予想していたはずだ。それほど動揺する様子は見せなかった。堂々と立ち上がる。
「頼んだぞ。お前ならきっといい部長になれる」
 蘇芳先輩が彼に視線を向けた。優しい笑みを浮かべて。
 その言葉は本心からに決まっている。浅葱もきっと金澤先輩ならいい部長になってくれると思っていた。
 蘇芳先輩に比べればそりゃあ、一年後輩なのだからまだ未熟なところはあるかもしれない。
 けれど蘇芳先輩のサポートに回る姿は一生懸命という言葉がよく似合う姿であったし、二年生リーダーとしてしっかり働いているのを春から見てきた。
 だから金澤先輩が次期部長になるなら安心して活動できる。浅葱は確信した。
「未熟ですが、精一杯、務めさせていただきます!」
 蘇芳先輩にまずおじぎをして、次に部員たちに向かってもおじぎをしてくれた。律儀なひとなのだ。
 ぱちぱちと自然と拍手が起こった。きっと部員たちも浅葱と同じ気持ちなのだろう。
 そこから次々と役職が発表されていった。副部長に会計、書記……。すべて現二年生だった。
 どきどきとする気持ちが強くなっていく。
 現一年生に役職のある子はいない。だから二年生リーダーだった金澤先輩のように『持ち上がり』といってもいいような立場がなく、まったく想像がつかなかったのだ。
 まさか自分が任命されたら。
 とても緊張するし責任感はプレッシャーになるだろうけど。
 できるならやってみたい。その気持ちは確かにあった。
 そして浅葱の期待通りになってしまったのである。
「では最後に、二年リーダーだ」