知った瞬間、顔が熱くなった。
 先輩が選んでくれたもの。
 あれは自分のためだったのだ。
 悪いほうに考えることなんてなかった。自分のことを大切に想ってくれている。その証のようなものだったのだから。
「六谷、手が冷たいだろう。だから手袋があったらいいなと」
 そこでもうひとつ、思い当たった。

『そろそろ手袋、準備しないとなぁ』
『私も、そう考えてました。手袋、新しいの買おうかな、とか』
『なんだ、同じか』

 笑って言い合ったこと。ライトアップを見たときのこと。
 あれも、きっと覚えてくれていたから。
 蘇芳先輩がどんなに自分のことを考えてくれていて、そして想い出を覚えていてくれたのか。
 それが痛いほどに伝わってきた。
「ありがとうございます。きっとすごくあったかいです」
 こんなの、もう既にあったかいよ。
 心の中が、胸の奥が、一番深いところにある気持ちが。
 あたたかく感じてたまらない。
 浅葱は心の中でそう思った。
「六谷の手。いつも俺があっためてる気持ちになれたらいいな、と思って。それで、赤いのを」
 ふと蘇芳先輩の声が変わった。ちょっと言いづらい、というようなものになる。
 浅葱はあれ、と思った。どうして言いづらいのだろうか。
 赤いのが特別なのだろうか。
 自分は特別に赤が好きなわけではないけれど……。
 赤。
 それをつければ蘇芳先輩が『あっためてる気持ち』になるというのは……。
 数秒考えてしまった。
 けれどぱっと頭の中に浮かんだ。
 きっとこの理由。
 わかった途端、顔がもっと熱くなってしまう。
 赤、にもいろんな色がある。
 そして色の表現もたくさんある。
 その表現のひとつ。
 この手袋のような暗めの赤色。
 日本の、和の色で表せる言葉がある。
 黒みを帯びた赤い色のこと。
 ……蘇芳色。
「すごく、綺麗な色です」
 もじもじしてしまったけれど言った浅葱。
 その声からか様子からか、蘇芳先輩もわかってくれたらしい。空気が安心した、というものになる。
「ちょっと、キザっぽいかなとか思ったんだけど」
 照れたように言った蘇芳先輩。その様子はどこか子供っぽくて。
 浅葱の心の中が、ふわっとあったかくなってしまう。
「いいえ。私、」
 ちょっとためらった。
 でも蘇芳先輩がくれたのだ。
 思い切った。
「この色が、とても好きです」
 それは遠回しだったかもしれない。
 でも浅葱にとっても、そして蘇芳先輩にとっても、きっとなによりはっきりした意味を持つものだっただろう。
「……ありがとう」
 蘇芳先輩の言葉。そしてもう一度、伸ばされた手。
 浅葱の手をあたためてくれるそれは、きっとあたたかな色を持った温度だっただろう。