落ちついたはずの心は、簡単に跳ね上がってどきどき速い鼓動を刻んだ。体全体を支配してくるようにかぁっと熱が全身に回る。
 きっと頬も赤くなったと思う。
 でもしっかり合った視線はそらさなかった。
 どきどきして、苦しくて、すごく恥ずかしいけれど。
 ごくんと唾を飲んだ。今度は心の中ではなくなってしまった。緊張しすぎてそんなことできなかったのだ。
 喉の奥に。そして心の一番奥、大切なところに入れていた自分の想い。今、伝える。
「私でよければ、喜んで」
 声は震えてしまったけれど、意外としっかり出すことができた。それにほっとしたのは浅葱だけではなかったようだ。
 蘇芳先輩の纏う空気が、ふっと緩んだ。
 にこっと笑う。今までは目元だけで笑っていたのに、顔全体が笑顔になったのだ。
「ありがとう」
 触れ合った手。今度はただ、一方的なものではなかった。
 守るように先輩の手がしっかり包んでくれている。
 あたたかい。そしてそれ以上に熱い。
 ひとの手をこんなに熱く、しかし心地良く感じたのは、浅葱は初めてだった。
 気持ちはあっさり通じ合ってしまった。
 しかしそれは、ちっともあっさり、ではないのだ。
 浅葱が蘇芳先輩に初めて『出会った』とき。蘇芳先輩の絵を通して出会ったとき。
 そこから生まれた気持ちはどんどん膨らんで、重色高校に入学して、実際に蘇芳先輩に出会ったとき。そこからどんどん育っていった。
 そして蘇芳先輩からも。
 一緒に過ごして、話をして、ときには特別な時間を過ごすことで、二人で育てていったものだ。
 それを『あっさり』と感じてしまったのはきっと、その気持ちの育み方が間違っていなかったという証拠なのだろう。
 目の前のきらきらとしたイルミネーション。
 あのとき見た青いライトアップも綺麗だった。
 けれど一緒に見ている蘇芳先輩の気持ちをしっかり受け取って、自分の気持ちも渡したことで、ずっと、ずっと優しくきらきらと輝いているように見えたのだった。