その声はあまりに優しくて。浅葱だけに向けられていて。
 顔が熱くなる。嬉しさに、感動に、そしてくすぐったさに。
 やっぱりこれも言うのは恥ずかしいと思った。
 でも同じだ。言うべきときだ。浅葱は思い切って、さっきより勇気は必要だったけれど言った。
「嬉しい、です」
 蘇芳先輩の目元が細くなり、笑みの形になる。
 そして手すりに乗っていた浅葱の手。そこにあたたかいものが触れた。
 今度はわからないなんてこともなかった。戸惑うこともなかった。
 なんとなく、想像してしまっていたのだ。
 あのときと同じ、きらきらとした光を一緒に見ている。
 それならあのときと同じになるだろうと。
 蘇芳先輩の手はあたたかかった。体温が高いのだろうか。寒い中、そこだけあたたかい。
 いや、浅葱の心の中が熱いせいか、触れられたところがあたたかいを通り越して熱くなってしまったように感じた。
「六谷」
 蘇芳先輩の手にちょっとだけ力がこもった。きゅっと浅葱の手の上から包んでくる。
 どきりとした。待ち望んだ、それにふさわしいとき。それが今なのだ。
「六谷とこういう、きらきらした美しいものを一緒にこれからも見たい」
 蘇芳先輩の声。優しかったけれどどこか固いのが伝わってきた。
 それは何故か浅葱の心をかえって落ちつかせてしまった。
 ああ、先輩も緊張しているんだ。
 平気でいられないほど真剣に伝えようとしてくれているんだ。
 それがひしひしと伝わってきた。
「隣にいるひとになってほしい。俺と付き合ってくれないか」
 はっきりとした、告白の言葉だった。