話すのはなんでもないことだった。
 作品はどのくらい進んでいるかとか、そういう部活のことがメイン。
 浅葱はこの普通の会話に内心、首を傾げた。部活の話をするためだったのだろうか。そういうわけではないと思うけれど。
 ちなみに今日はまだ夕方とはいえ明るかった。
 冬季賞の締切までは余裕があるので、部活のあとといっても居残りをしたわけではないので時間もそれほど遅くない。
 だからまだ街中にはなにも灯っていなかった。あのときと同じライトアップもついていない。ただ葉っぱのない街路樹などちょっと寂しい光景が広がっている。道行くひとたちもなんだか寒そうだ。
「随分冷えるようになったなぁ」
 蘇芳先輩が言った。それも何気ない会話だったので、浅葱はただ頷いた。
「もう十二月になりましたもんね」
「そうだな。月日の流れるのは早いもんだ」
 ちょっと遠いところを見るような目になる。その横顔を浅葱はそっと伺った。
 穏やかな目をしている蘇芳先輩。こんなに近くで見られるのは嬉しいけれど、やっぱりどきどきしてしまう。
なのにどこかおだやかなのだ。今の蘇芳先輩の横顔のように。
 前にここで青いライトアップを見たときとはちょっと変わった、と浅葱は感じた。
 それは蘇芳先輩との関係が多少なりとも変わった……いや、進んだ、ということかもしれない。
 そう思うと心の中がくすぐったく、ほのあたたかくなるのだった。
「そろそろかな」
 ふと蘇芳先輩が呟いた。その言葉に反応したようにカーン、カーン、と鐘が鳴った。
 ちょっと驚いたけれど、ただの時刻を告げる鐘だ。今日は五回。五時だ。
 あのときは六時だったな、と思ったそのとき。
「わ……っ!?」
 目の前が急に明るくなった。
 ぱぁっと、赤と緑が眩しく輝く。
 一瞬、なにが起こったのかわからなかった。すぐに理解したけれど。
 ライトアップだ。それが一斉についたのだ。五時はもしかしたらライトアップがつく時間だったのかもしれない。
「わぁ……」
 声を出してしまったが、浅葱の今度のそれは感嘆の声だった。ほぅ、と息が零れる。
 目の前のライトアップ……いや、イルミネーション。
 前回の青色とは違っていた。赤と緑でクリスマスカラー。つまりクリスマスのイルミネーションなのだ。これは。
 とても美しかった。きらきら輝いて、さっきまでの寒々しい様子は一変した。
「今日からなんだ」
 横で蘇芳先輩が言って、浅葱はそちらを見た。視線が合う。
 どくん、と心臓が跳ねた。
 今日から。
 それはつまり。
 理解した途端、どきどきと心臓の鼓動が速くなる。その鼓動の早さは体と顔を熱くした。
 つまり、浅葱にこのクリスマスのイルミネーションになったライトアップを見せようと思って。今日、呼んでくれたのだ。
浅葱が自分の言ったことの意味を理解したとわかってくれたのだろう。ふっと蘇芳先輩の目元が緩む。
「一緒に見たかった」