「いいところっていうか……部員なんだからしっかりしたのを出したいなって……」
 ご飯を飲み込んでから言ったけれど、それは歯切れが悪くなってしまったし、実際それは友達に指摘されてしまった。
「しっかりしたのを出して褒めてもらえたらいいしね」
 それは明らかにからかう意図だったので浅葱は「そんな邪な気持ちじゃないから!」と膨れることになる。
 それは本当だ。
 褒めてもらいたい気持ちはある。それは邪。
 でも本当に純粋な『いい作品を作りたい』という気持ちなのだ。それも野望ともいえる大きなもの。
 美術部部員として。それから自分の実力を出したいという意味で。
 満足できるものを作り上げたかった。
「そうしたら蘇芳先輩も好きになってくれるかもしれないし!」
 しかし次に言われたことにはむせてしまった。ごほごほ、と咳き込んでしまう。
「そ、それはないから!」
 咳がおさまって、はーっと息をついたあとに言った。遅れて胸が高鳴ってくる。
 蘇芳先輩が自分を好きになってくれる。
 そりゃあ、そうなったらどんなに幸せだろうか。
 けれどなにしろ蘇芳先輩は学園の王子様なのだ。
 憧れている、というか片想いをしている子は星の数ほどいるだろう。
 その中の一番……つまり蘇芳先輩に好きになってもらえる存在になれるかと言ったら、それはすごく難しいと思う。
「そんなことないよ」
 そこで言ってくれたのは綾だった。浅葱を見てにこっと笑う。
「だって頑張ってる女の子は魅力的だもん。そういう女の子のことはいい印象を持ってくれるよ」
 浅葱の胸がじんと熱くなった。
 そうだ、好きになってもらえる、恋をしてもらえるなんてことはわからない。保証もない。
 けれど「頑張ってるな」「すごいな」と思ってもらえることは無理じゃない。
 それなら、それだけでもいい。いい印象を持ってほしい。
「ありがとう。頑張るよ!」
 明るい気持ちになってそう言った浅葱。友達たちも「確かにそうだよね」「頑張って!」と言ってくれた。
 そのまま話題は次に移っていったけれど浅葱の胸は熱いままだった。
 秋季賞に出す作品。
 自分の全てを詰めようと思う。
 好きなひとに認められたいというのは当たり前の感情であるし、それを別にしたって輝けることであるのだ。
 だからそういう姿勢で挑もう。
 魅力ある自分でいたいから。
 今日の部活の時間が既に楽しみになっていた。
 今日はどの作業をしようか。
 おしゃべりが終わって午後の授業がはじまっても。
 授業には集中していたけれど、合間合間につい頭に浮かんでしまっていた。