「ああ、六谷。ありがとう。いきなり呼んで悪いな」
 息せききってたどり着いた、駅の向こう側の歩道橋の広場。そこに小走りで行けば、蘇芳先輩が確かにそこにいた。
 あのときと同じように手すりに手をかけて、前にライトアップを見ていたほうを見ていたけれど浅葱の近付く足音か気配か。それで気付いてくれたようで振り返った。にこっと笑ってくれる。
 浅葱の心臓がどきんと跳ねた。優しいこの目。こんな、二人きりの場所で見るのはどのくらい久しぶりだろうか。
 きっと今日、なにかがあるのだ。そうでなければあんな意味ありげなメモがあるものか。
 どきどきしながら浅葱は蘇芳先輩に近付いた。
「すみません、お待たせしちゃいましたか?」
「いいや、急に呼んだのは俺だから。メモ、気付いてくれてありがとな」
 そう言ってから、蘇芳先輩はちょっと悪戯っぽい目になった。
「名前。書かなかったけどわかってくれたんだな」
 浅葱はそれではっとした。そういえばそうだった。あのメモには名前が書いていなかった。
 けれど浅葱はその字と内容だけで蘇芳先輩だとわかってしまった。
 急に恥ずかしくなってしまう。
 でも、嬉しかった。
 あのとき。浅葱が蘇芳先輩にチョコの差し入れをしたとき。あのときと全く同じことになったから。
 心の中で唾を飲んだ。言うのはもっと恥ずかしかった。
 それでも思い切って言葉にする。
「蘇芳先輩だと、すぐ、……わかりました」
 浅葱の返事に、蘇芳先輩はまた微笑んでくれた。その目はさっき見たときよりもっと優しく感じられた。
「そりゃ嬉しい」
 それから、ライトアップを見たときと同じように二人で並んだ。