部活の終わったときだった。浅葱は私物を置いてあるところへ行き、そこで『それ』に気付いた。
 それは一枚の紙だった。
 あれ、なんだろう。私、ここにバッグを置いたときになにか挟んじゃったのかな。
 そのくらいに思ってその紙を取り上げてひっくり返して。
 どきっと心臓が跳ねた。
 そこに書いてあったことより先に目に入った字。
 字だけでわかる、と前に言われたことがある。
 目に入った字は、それとまったく同じ。
 ……蘇芳先輩のものだと浅葱にはすぐにわかった。
 そこで既に浅葱はこれが、特別なものだと知ってしまった。
 どくん、どくんと心臓が跳ねる。今度は良い意味で胸が騒ぐ。
 書いてあった字、つまりメッセージを読んで、もっと鼓動は速くなってしまった。速くなりすぎて苦しくなってきたほどに。
『時間があったら、あの場所で待ってる』
 書いてあったのはそれだけだった。小さなメモだったから。
 あの場所、とは。
 一瞬だけ考えてしまったけれど、すぐに思い当たった。
 『あそこ』だろう。メモに添えられていた、絵。それを見ただけで伝わってきたのだ。
 時間があったら。浅葱は高鳴る胸を抱えながら考えた。
 このあと用事もない。
 今日は金曜日。つまり翌日は休み。だから少し遅くなってもあまり影響はない。
 お母さんには『部活が長引きそうだからちょっと帰りが遅くなりそう』とメッセージアプリで連絡をしておけば、あまり怒られないだろうし。
 ごくっと唾を飲んでしまった。
 メモをそっと手の中に入れる。紙に温度などあるはずがないのに何故かほんのりとあたたかいような錯覚が生まれて、浅葱の胸を熱くした。