さて、冬季賞の作品。
 浅葱は今度、赤をベースにした絵にしようと思っていた。
 前回、青一色の絵を描いたからというのもあるし、なにしろ冬なのだ。暖色の絵のほうがなんだか描いていて心もあたたまるような気がして。
 なにを描こうか迷ったけれど風景にすることにした。
 最近読んだ海外の小説の風景の描写がとても印象的だったのだ。
 海外の家。テレビでもよく見るヨーロッパの街並みが浅葱は好きだった。
 実際に見たことなどない。けれどいつか見に行ってみたいと思っている。
 それにヨーロッパ、イタリアやフランスは絵画の本場でもある。ぜひ一度行ってみたいものだ。
 今は無理にしても、大学生になってバイトをするようになったら行けるかもしれない……と夢みていた。
 そういう、風景。題材に選んだ。
 下書きの時点から蘇芳先輩に何度も見てもらっていたけれど、それだけだった。
 それだけ、というのは特になにを言われることもなく、絵へのアドバイスや部活の話だけだった、ということだ。
 浅葱はちょっと、ちょっとだけだけど。気持ちが急くのを感じていた。
 気持ちを告げたい。あのとき土日の活動の最後、二人きりになったときに言おうと思ったけれど飲み込んでしまった気持ち。
 今なら状況にも気持ちに余裕もある。もう少しすると冬季賞の作品作りに集中しなくてはいけなくなるし、それから蘇芳先輩の部活卒業も近付いてしまう。
 けれどなかなか、今だ! というタイミングがなかった。
 二人きりになるチャンスもなかったし、つまりそういう雰囲気ももってのほか。
 思いついたのはクリスマスだった。告白をするのにちょうどいいだろう。
 ちょうどいいけれど、いきなり「クリスマス、一緒に過ごしませんか」なんてことは言えない。そんなあからさまで狙っているようなことは。
 悶々としていたところだった。『それ』が浅葱の通学バッグに挟むように伏せて置かれていたのは。