冬季賞の作品にも手をつけはじめた。
 十二月が目前に迫っていて、下絵を描いて下塗りをはじめる時期である。
 浅葱の心はあれから晴れなかった。勿論ずっと落ち込んでいたわけはない。
 すぐに気を取り直した。自分はただ、蘇芳先輩がそういうことをしていた、という様子を聞いてしまったに過ぎないのだ。
 それを丸ごと信じて落ち込んでしまったり疑ったりするのは馬鹿げたことである。本当のことかもわからないのに。
 本当にそういうものを買っていたとしても、お母さんや親戚……いとことか……そういうひとにあげるものだったのかもしれないのではないか。
 綾にも相談したけれど「そっちの可能性のほうが強くない?」と言ってもらえた。それで浅葱の心がだいぶ持ち直したのもある。
 だって蘇芳先輩はあのライトアップを見に行ったときも、秋季賞直前の土日活動のときも浅葱を特別だと、少なくとも少しは特別だと感じるようなことをしてくれたのだ。彼女がいるならそういうことをするだろうか。
 浅葱はそんなことはない、と思った。そんな、いるかもしれない彼女にも、それから浅葱にも不誠実なことをするひとじゃない。信じてる。そう自分に言い聞かせて。
 でもまだ本当のことはわからないから。
 たまに思い出して、胸はちくっと痛んでしまうのだった。