「ああ! 結構美人のヒトな」
 次々に情報は入ってきて、浅葱には有難いことだったけれど面白いはずがなかった。
 でも一応『情報』なのだ。聞かないわけにはいかない。
 嫌な感じにどきどきする心臓を抱えながら、結局、浅葱はその話を全部聞いてしまった。
 そのうち予鈴が鳴ってはっとしたけれど。
 いけない、聞いていたのがバレてしまう。授業にも遅れてしまうし。
 浅葱はそろっと教室の前を離れて小走りで階段へ向かった。
 どくん、どくんと心臓が気持ち悪く騒いでいる。
 もしかして、蘇芳先輩がモテモテなのに彼女がいないのはあのひとと、曽我先輩というひとと付き合っているのでは。男子の先輩たちが話していたように。
 校外で付き合っていることになるけれど、それなら浅葱やほかの子たちが知らなくても不思議はない。
 胸の中がざわざわして気持ち悪くなってくる。
 いつのまにか教室に着いていて、ドアの前ではぁ、とため息をついた。
 このあとの授業にはとても集中できそうになかった。
 それでもサボったりするわけにはいかない。授業開始のチャイムのぎりぎりになってしまったので急いで教室へ入って、先生の使う教卓に抱えていた資料を置いた。
 おまけに外の雨は強くなるばかりで、午後は随分冷え込んだ。シャーペンを握る手が冷たいように感じてしまって、浅葱はセーターの袖を引っ張って手を包みこむ。
 思い出したのは駅のライトアップを見に行ったときのこと。
 あの、初めて触れ合った手のあたたかさが恋しくてたまらなくて、でも本当は自分の勘違いか思い上がりだったのではないか。
 そういうふうにも思ってしまって、涙が滲みそうになってしまった。