「予定をいつもスケジュール帳に書いてるんです。走り書きくらいなんですけど……」
ちょっとくすぐったい。自分もついでに褒めてもらっているようなものだ。
「いや、それはとても偉いよ。先のことを考えるってのは難しい。そうだな、……進路とかも同じ、だな」
進路。
浅葱はそれがちょっと引っかかった。
すぐにはっとしたけれど。
蘇芳先輩がこの美術部の部長でいる時間。実はもう少ないのだ。
もう秋も真っ盛り。少しすればすぐに萌江の言った冬季賞へ向けて活動することになる。
冬季賞の提出は年末だけど、それが終わったら多分蘇芳先輩は卒業へ向けて部を卒業してしまうのでは。
いや、進路、と言った。
当たり前のように浅葱たち高校生にとっては大学や専門学校への進学、というのがメインだ。
蘇芳先輩は……。
浅葱はちょっと考えた。
蘇芳先輩は……どの大学へ行く予定なのだろう?
大事だったそのこと。初めて考えたような気がした。
いや、一応聞いたことはある。美大を目指している、と前に雑談の中で聞いたのだ。
そのときは「美術部部長だし、自然だよなぁ」と思って、単に「すごいですね! 頑張ってください!」と言ったのだった。そのときの自分はまだ呑気だった、と思う。
蘇芳先輩がここからいなくなる時期。それが迫ってきているのだ。
急に、一瞬だけ心の中にひゅっと冷たい風が一筋抜けたように感じてしまった。
「蘇芳先輩は美大へ行かれるんでしたっけ」
その間に萌江が質問していた。蘇芳先輩はちょっと笑って手を振る。
「受験はするけど、入れるかはわからないよ」
「そうですけど! 先輩なら絶対受かりますよ」
萌江は確信に満ちた声と顔で力強く言った。浅葱もそう思うし、その通りのことを言って応援したかった。けれど何故か声が出てこなかったのだ。
「そうかな。ありがとう。頑張るな」
ふっと笑って蘇芳先輩は「じゃ、俺は水野先生と打ち合わせをしてくるな」と行ってしまった。
その後ろ姿を見送って、浅葱はちょっとだけ作品を提出できた明るい気持ちに陰が差したのを感じてしまう。
そうだ、秋が終わるというのはそういうことだ。今まで絵にかかりきりで、そんなことも思いつかなかった自分が迂闊すぎたと感じてしまう。
この時間はいつまでも続いていくものではないのに。
おまけに。
「美大、かぁー。どこだろうな。多真美(たまび)とかかなぁ」
萌江があげたのは『多真(たま)美術大学』。美大を目指す生徒なら知らないはずはないどころか憧れて当然のところである。
「そうかもね。でも蘇芳先輩なら絶対受かるでしょ」
色々と考えてしまった浅葱だったがそう言った。今、あれそれ思い悩んでも仕方がないからだ。これからゆっくり考えればいい。
けれど、ひとつだけ。
「……尊敬する先輩のいるところ、なのかな」
ぽつっと萌江が言ったこと。
それがひとつだけ。気になってしまったことだった。
ちょっとくすぐったい。自分もついでに褒めてもらっているようなものだ。
「いや、それはとても偉いよ。先のことを考えるってのは難しい。そうだな、……進路とかも同じ、だな」
進路。
浅葱はそれがちょっと引っかかった。
すぐにはっとしたけれど。
蘇芳先輩がこの美術部の部長でいる時間。実はもう少ないのだ。
もう秋も真っ盛り。少しすればすぐに萌江の言った冬季賞へ向けて活動することになる。
冬季賞の提出は年末だけど、それが終わったら多分蘇芳先輩は卒業へ向けて部を卒業してしまうのでは。
いや、進路、と言った。
当たり前のように浅葱たち高校生にとっては大学や専門学校への進学、というのがメインだ。
蘇芳先輩は……。
浅葱はちょっと考えた。
蘇芳先輩は……どの大学へ行く予定なのだろう?
大事だったそのこと。初めて考えたような気がした。
いや、一応聞いたことはある。美大を目指している、と前に雑談の中で聞いたのだ。
そのときは「美術部部長だし、自然だよなぁ」と思って、単に「すごいですね! 頑張ってください!」と言ったのだった。そのときの自分はまだ呑気だった、と思う。
蘇芳先輩がここからいなくなる時期。それが迫ってきているのだ。
急に、一瞬だけ心の中にひゅっと冷たい風が一筋抜けたように感じてしまった。
「蘇芳先輩は美大へ行かれるんでしたっけ」
その間に萌江が質問していた。蘇芳先輩はちょっと笑って手を振る。
「受験はするけど、入れるかはわからないよ」
「そうですけど! 先輩なら絶対受かりますよ」
萌江は確信に満ちた声と顔で力強く言った。浅葱もそう思うし、その通りのことを言って応援したかった。けれど何故か声が出てこなかったのだ。
「そうかな。ありがとう。頑張るな」
ふっと笑って蘇芳先輩は「じゃ、俺は水野先生と打ち合わせをしてくるな」と行ってしまった。
その後ろ姿を見送って、浅葱はちょっとだけ作品を提出できた明るい気持ちに陰が差したのを感じてしまう。
そうだ、秋が終わるというのはそういうことだ。今まで絵にかかりきりで、そんなことも思いつかなかった自分が迂闊すぎたと感じてしまう。
この時間はいつまでも続いていくものではないのに。
おまけに。
「美大、かぁー。どこだろうな。多真美(たまび)とかかなぁ」
萌江があげたのは『多真(たま)美術大学』。美大を目指す生徒なら知らないはずはないどころか憧れて当然のところである。
「そうかもね。でも蘇芳先輩なら絶対受かるでしょ」
色々と考えてしまった浅葱だったがそう言った。今、あれそれ思い悩んでも仕方がないからだ。これからゆっくり考えればいい。
けれど、ひとつだけ。
「……尊敬する先輩のいるところ、なのかな」
ぽつっと萌江が言ったこと。
それがひとつだけ。気になってしまったことだった。